第50話『影』@ 葛◆5fF4aBHyEs 様
視界の隅をサッと黒い影が横切った気がして顔を上げる ……何の変哲も無い、いつも通りの大学の食堂の風景 向かいでカレーを食べていた友人が、私の様子に気付いて不思議そうに首を傾げる 「どうかした?」 「ううん、別に……」 気のせいか。そう思って私は手元の親子丼に視線を戻した 廊下で友人と話していると、視界の隅を黒い影が走る。正門からふと見上げると、窓のところを何かが通り過ぎる そんなことが何度かあるうち、私は黒い影が通る時、必ずある男性がその近くに居ることに気が付いた 学年は1コ下らしい。細身だが、背がかなり高く、眼鏡をかけている。交友関係はかなり広いようだ。所属はテニスサークル ……気になるとつい目で追ってしまったせいで、かなり彼に詳しくなってしまった。これじゃまるでストーカーだ そうこうしているうちに、夏休みに入った 私は里帰りしたこともあって、彼のことなどすっかり忘れていたのだが 夏休み明けに見掛けた彼は、以前とは全く違っていた ……何と表現したらいいのだろう。彼の周囲がぼやけて見える。というより、『ブレて』見える 二重にズレた印刷を見ているような感じで、じっと見ていると酔ったように気分が悪くなる 自分の目がどうかしたんじゃないかと思ったけれど、そんな現象は彼と彼の周囲にしか起きていない 気にはなるけれど、まさか聞くわけにもいかない。そもそも私は彼と親しい訳でもないのだし ……でも気になる そんな葛藤を続けていたある日、前日に徹夜していて眠かった私は、一日中机に突っ伏して眠っていた 眠っていたといっても半覚醒のような状態で、人のざわめきなどを聞くともなしに聞いていた そんな中、一つの足音が近づいてくる ああ、この机の横を通ってるんだな ぼんやりとそう思った次の瞬間、 「……よく分かったな」 ぼそりと囁くような低い声が聞こえて、ガバッと飛び起きた その勢いに、隣を歩いていた『彼』が驚く 今のは彼の声によく似ていた……? 彼は私の様子に、不思議そいに首を傾げながら、通り過ぎて行った 数年後、彼が逮捕されたニュースを見た そこには、『爽やか』で『人当たりもよく』、『朗らか』だった彼とは似ても似つかない罪状が並んでいた 彼を知る人たちは、口を揃えてこう言った 「彼は突然、『まるでとり憑かれたように』人が変わった」、と だが、私は思うのだ あれは、『とり憑かれた』のではなく、もしかしたら……
