第26話『花』@ 葛◆5fF4aBHyEs 様

久しぶりに幼なじみと再会した
彼とはお互いに「隣家まで1kmとか普通」「遊びに行ける距離に同い年の子が居ない」という限界集落で育ったので、小学校の頃はよく遊んでいた
中学の時はお互いそこまで親しいわけでなく、別々の高校に進んでからはぱったりと顔を合わさなくなった
通学に不便だからと高校近くのアパートで一人暮らしを始め、風の噂に「悪い仲間に入って高校を中退した」と聞いていたのだが……
久しぶりに会った彼は、見違えるほど爽やかな好青年になっていた
立ち話も何だし、自分もちょうど時間があったので、二人して喫茶店に入る
「変わんねーな、お前」
「あんたは変わったねー。てか、暴走族に入って高校中退したって聞いてたんだけど」
単刀直入に話題を振ると、彼は困ったような顔で頷いた
「でも、もうやめたんだけどね」
「何かあったの?」
水を向けると、彼は言いにくそうに口を開いた
「DQN話になるから、不快になったらごめんな。……オレ、高校やめてから仲間と一緒に毎日のように暴走行為を繰り返してたんだ」
ちょっと口には出せないくらい荒い運転で、他の人の迷惑なんて一切考えなかったらしい

「……で、ある日事故った」
スリップしてガードレールと接触し、倒れ込んだそうだ
幸いにも無傷だったが、無傷だからこそ余計に恥ずかしかったらしい
「仲間は笑ってるし、むしゃくしゃしてガードレールの支柱を蹴飛ばしたんだ」
そうしたら、支柱の向こうに置かれていた、花束を挿した瓶が倒れたそうだ
最初は「悪いことをしてしまった」と後悔した彼だったが、仲間たちに笑われてついカッとなってしまったらしい
「その花束をグシャグシャに踏み潰したんだ」
「うわぁ……」
正直に引いてしまう自分に、彼も申し訳なさそうな表情を浮かべていた
「……その時は『悪いことするオレカッケー!』ってくらいの気持ちだったんだけど、その夜から妙な夢を見始めて……」
それは、ランドセルをかるった小学校中学年くらいの女の子の夢
「自分は交差点の近くに居て。女の子がこっちに駆けて来て。『おはようございます!』って言って手を振りながら通り過ぎていって……」
そこまで言ってから一旦言葉を切り、大きく息を吐いた

「オレは何でか、『そっちに行っちゃ危ない』って知ってるんだよ。でも、そう言ってあげたいのに声が出なくて動けなくて……」
ほんの数分間の出来事。それを繰り返し繰り返し、何度も夢に見たのだという
「寝付けなくなってかなり参って、そうなってからやっと反省して、花束を持ってお参りに行った」
その日から、夢は見なくなったそうだ
「……それ、女の子が化けて出てたってこと?」
「うーん、どうなんだろ。どっちかというと女の子の親とか、『通学見守り隊』のシニアの人とかだと思う。見ていたのに助けられなかった後悔が強かったから」
「……そっか」
仲間とは離れてしばらく経つが、今でも女の子の月命日にはお参りを欠かさないらしい
そして今は土建屋に就職し、元請けに引き抜かれた、と彼は話してくれた
「それにしても、良かった。お前と久しぶりに会えて。オレ、今度から東北行くんだ」
現場主任が復興の応援に行くことになったのだが、その時に彼も誘ってくれたのだと言う
「しばらく帰ってこないと思うけどさ、親からは勘当されてるし、学は無いけど体力だけなら無駄に有り余ってるし、出来ることを頑張ってくるよ」
そのために、女の子のところにお参りして「しばらく来れません」と手を合わせて来た帰りに、自分とバッタリ出会ったらしい
「良かったらさ、花束代は送るから、代わりにお参りしてくれないか。毎月じゃなくて、行ける時で構わないから」

そう言って、彼は発って行った。あれから2年が経つが、どうやら元気でやっているようだ