第20話『女』@ 水藤◆IO8bwLPiQ6 様

父に聞いた話。
当時高校生だった父は下校中、急に後ろから肩を掴まれた。
父がびびりながら振り向くと、血走った目をした30歳前後の女が「何で私の前を歩くのよ!」と叫んで、唖然とする父を超早足で追い抜いていった。
父は女を見送ったあと、その後ろに着いていくのも怖かったため、脇道入って少し遠回りをして帰ることにしたらしい。

脇道に入ってしばらくすると、背後から足音がし始めたそうだ。
人通りの少ない道なのに珍しい。そう思ってちらりと振り返った父は思わず小さな叫び声をあげていた。
父の背中ににピタリとくっつくように、先程の女が立っていたのだ。
女は何かブツブツと呟いていて、とても常人とは思えない様子だったそうだ。
恐怖がピークに達した父は振り向いて女を突き飛ばすとすぐさま踵を返し、全速力で家まで逃げ帰った。

この話でも十分怖いけれど、一番怖いのは俺がこの話と全く同じ体験をしたってこと。
俺の場合は流石に女を突き飛ばす勇気が出ずコンビニに逃げ込み振り向くと、いつの間にか女はいなくなっていたのだが。
背後に張り付いた女は終始「何故前を歩く、お前も突き飛ばすんだろう」って延々と呟いていた。この発言から考えると、恐らく父の遭遇した女と俺の遭遇した女は同一人物である。

だが、もし同一人物であれば、あの女は40年近く姿形を変えずに存在していることになる。
彼女は一体何者だったのだろうか。