第42話『欲』@ 葛◆5fF4aBHyEs 様

祖母の姉、つまり大伯母は派手好きな人だった
容姿も、常にブランド物を身につけ、宝塚もかくやという化粧。そのうちラスボスと化してもおかしくない
子供心に「孔雀かよ」とツッコミを入れたくなるほど派手だったし、また金遣いも派手だった
曰く、『引きが強い』のだと言っていた
実際商店街の福引きでは引けば必ず上位に入る、ちょっとしたことでもラッキーを引き当てる
出掛ければ財布を拾って謝礼を貰う。パチンコに行けば元手を10倍にして帰ってくるなんて日常茶飯事だった
でも、祖母やうちの両親……ううん。親戚、近所の人を含め大伯母に関わる人は全て大伯母を敬遠していたように思う
自分も大伯母の事は苦手だった
悪い人では無いと思う。子供の自分でも「コミュニケーションが下手なんだな」と感じる、どこか幼い部分を残した人だった
よくお小遣いをくれたけれど、そのお金は自分の懐に入る前に祖母か母が取り上げ、どこかに持って行っていた
子供だから「あれもほしい、これもほしい」という気持ちはあったので
『お小遣いをくれる大伯母=良い人』『お小遣いを取り上げる祖母や母=嫌い』と思ったりもしたけれど、そういった気持ちは年を重ねるごとに薄れていった
稀に見つからず、お小遣いを取り上げられずに済んだのだが、お小遣いを使った時は必ず不幸な目にあったからだ
五百円貰って自販機でジュースを一本買った時は、自転車と接触事故。千円貰ってコミックを一冊買った時は、突然フェンスが倒れてきて額を切り、2針縫った
五千円貰ってゲームを買った時は、車に跳ねられて足を折った

こうなってくると何となく、「大伯母のお金って良くない物なんじゃないだろうか……」と思ってしまう
手に入れた金額が大きく、使った金額が大きくなれば被害も大きくなる傾向にあるようだ
だとしたら、既に多額のお金を手にし、あちこちで散財している大伯母は、今でこそ無事だけれど、何か良くないことが起きるんじゃないだろうか……そんな予感がした

やがて、大伯母は亡くなった
如何様を疑われての見せしめだとか、どうやってその強運を手に入れたのか聞き出そうとしたに違いないとか言われていたけれど、真相は知らない。知りたくも無い
ただ一つはっきりしているのは、「子供には聞かせられないような惨たらしい亡くなり方をした」という事実だけ
葬儀は身内だけでひっそりと執り行われた
葬儀の最中、突然風も無いのに蝋燭の炎が揺らいで消えたり、かと思えばいきなり「ボッ」と音を立てて火の勢いが強くなったりした
どこからともなく卵が腐ったような臭いが漂ってきたり、突然仏壇の裏から「キョエーッ!!」と奇声が響いてきたり、地震でもないのに棺だけがガタガタガタッと激しく揺れたり
妙な出来事は多かったが、とりあえず何とか葬儀を終える
大伯母は独身で、貯えも沢山あったのだが、誰一人遺産を欲しがろうとしなかった
むしろ誰しもが持て余しているようだった。結局遺産はお寺に納められた

「あんお金はな、邪法で手に入れたものなんよ」
いつだったか、祖母が教えてくれた
やり方は知らないけれど、と前置きして祖母は言う
「直接誰かを傷つけるわけじゃ無くても、非合法なことで無くても、アンタはそんなものに頼ったらいけんよ」
祖母に言われ、頷いた

今も時々、大伯母の寂しそうな顔を思い出す
どんなにお金があっても、決して満たされることの無かった大伯母は今、何を思っているのだろうか……