第11話『夜道』@ 葛◆5fF4aBHyEs 様

冬にしては珍しく、篠つくような雨が降りしきる夜更けだった
自分は、国道とは名ばかりの、『酷い道』と書いて酷道と読むような山道を走っていた
深夜0時。車はエアコンをガンガン入れているのに妙に肌寒い。外が雪でないのが不思議なくらいだ

片側一車線あるか無いかというような道を走っていると、やがて工事現場の信号が見えた
どうやら、片側交互通行になっているらしい。前に1台、黒い軽自動車が信号で停止している
リアガラスは黒いフルスモーク。車高低+見るからに威嚇しているようなリアウィング。あまりお近づきになりたいタイプではない

【落石防止のための、防護柵を設置しています】

見るともなしに看板を見ていると、やがて信号が青に変わる。……が、前の車はぴくりとも動かない
(おーい、信号変わってますよー)
心の中で呟くが、やっぱり前の車は待てど暮らせど動かない
(クラクション鳴らした方がいいのかなあ……もし、運転中に倒れてるとかだったらどうしよう……)
悩んだ末に車を発進させ、横を通り過ぎながら運転席を覗き込む……が、暗いせいか人の姿が見えづらい
(やっぱり、倒れてるとかなんだろうか?)
戻って中を見た方がいいのだろうか。でも、女一人でこんな深夜に車外に出るのは抵抗がある
と、後ろの車が動き始めた
(良かった。ちょっと居眠りしてたとかだけなのかな。……それはそれで危ないけど)
と安堵したのも束の間、
(……近すぎ……)
追い越したから怒ったのだろうか。後ろの車は見る間に距離を詰めてくる
バックミラーを覗くと、近過ぎてリアガラスのすぐ向こうにフロントガラスがぴったりくっついているかのようだ

自慢ではないが、こちとらスピード出すのが苦手な超ヘタレゴールド免許だ
幅寄せされても40km出すのがせいぜいで、一瞬、離合用のスペースが目に止まるが、
(追い越させたいけど……こんな行動する人なら、何するか解らないな……)
警察に電話しようか。そう思ってちらりと携帯を見る……が、圏外
とにかく人里まで。山道を抜けてからなら後は何とでもなる。そう考えながら、山道を下る
やがて道が急に広くなった。峠を降りて、人里が近くなったからだ
100mほどの直線の後、急カーブになる。何度か通ったことがあるので、道は覚えている
これだけ車間距離を詰められたらブレーキを踏んだ弾みに追突されそうで怖かったが、かといってスピードを出したままで曲がれるとは思えない
カーブの手前で減速した瞬間、
「!?」
ふっ……と後ろの車がかき消えた。というより、何かが追い抜いていったような感触。車の中の空気がふわりと揺れる
追い抜きざま、小さく「チッ」と男の声で舌打ちが聞こえた気がした
次の瞬間には、車の姿は消えていた
(事故って視界から消えた?……ってわけでも無いな。ガードレールにぶつかった音がしなかった)
一応警察に通報すべきだろうか。でももし万が一、本当に事故だったら…?
恐る恐る窓を開けた自分の目の前には、一部だけ不自然に新しいガードレールと、枯れた花束が雨に打たれていた