第5話『手袋』@ 葛◆5fF4aBHyEs 様

祖母は編み物が好きだった
勿論それは趣味の領域を出ないものだったけれど、私は祖母の作ってくれた服が大好きだった
祖母が亡くなる前年、私に手袋をくれた
それは、リボン柄が編み込まれたとても可愛らしい手袋で、私は何年もその手袋を使っていた
何年も使っていると、手袋はボロボロになった。加えて成長期なこともあって、「この手袋は今年で最後かなあ」なんて思っていた
新しい手袋を買いに出掛けてみるけれど、どれも祖母のものほどしっくり来ない

そんなある日、私は友達と高台にある公園に遊びに行った
元・お城の跡に作られた公園なので、石垣とお堀が未だに残っている
皆でボール遊びをしていると、ボールがお堀の方へ飛んでいってしまった
慌てて追いかけると……あった
良かった、ギリギリお堀に落ちてないみたい。手すりに引っかかってる
そんなことを思いながら鉄棒の横を通ると、突然ぐいっと右腕が引っ張られた
「えっ」
驚いて振り向いた私は、もう一度驚いた
引っ張られたと思ったのは間違いで、私の手がしっかりと鉄棒を握っていたのだ
「えっ、えっ??」
私は、鉄棒を握ろうなんて思っていない。むしろ握った手を離したいのに、指一本動かせない
自分の手が自分のものじゃなくなったみたい
半泣きになりながら左手で指を引き剥がそうとしたその時だった
グラッ……と地面が揺れて、私はその場にへたり込んだ
今思えば震度4くらいだったと思うのだが、滅多に揺れたことが無い地域だっただけに、辺りがにわかに騒がしくなった
いつの間にか、右手は鉄棒から離れていた
ボールは、揺れたからかお堀の方に落ちていったようだ
もし、ボールを拾いに行っていたら、弾みで落ちていたかもしれない

「きっとばあちゃんが守ってくれたんだよ」
帰って両親に話すと、父がそう言ってくれた

その手袋はもう小さくなって手は入らないけれど、今も私の机の上に飾ってある