第49話『電話』@ 葛◆5fF4aBHyEs 様
自分とヒナ(仮名)とケイ(仮名)の3人で涼を求めて山にドライブに出掛けた そこは頂上にキャンプ場がある関係で、車で頂上まで登れる 目的はキャンプ場ではなくその手前の小さな沢なのだが いい年した社会人が真夏の昼日中に3人揃って水遊びというのも切ない 釣り竿も一応持ってきていたが、渓流釣りは早々に諦めていた しかも鬱蒼と茂った木のせいか、蚊も多い それでも清涼な水の冷たさが気持ち良かった ひとしきり涼を満喫してさあ帰ろうかという時、プルルル……とケイの電話が鳴り始めた 「あ、もしもし母ちゃん?」 3人して車に戻りながら、ケイが話している あ、ここ電波入るんだ。頂上なら入るのは知ってたけど そう思って自分の携帯を取り出すが、表示は『圏外』になっていた ケイとはキャリアが違うからかな?もしくは自分のガラケーとケイのスマホで何か違うんだろうか 呑気にそう考える自分と違って、ケイと同じキャリア、同じ機種のヒナが青くなる 「ケイ、電話切って!」 「え?」 ケイが耳元から電話を離した次の瞬間、 『ヒヒヒヒッ』 携帯から不気味な笑い声が響いて、「うわっ」と叫んだケイの手から携帯が落ちる そのまま誰も動けずに、落ちた携帯をじっと見ていた やがて意を決したケイが、恐る恐る携帯を拾い上げる 携帯は液晶画面が割れ、電源が落ちていた 3人して押し黙っているせいか、やけに蝉の声が大きく感じられた。暑かった太陽の熱気が、今は重く、ねっとりとまとわりつくようだった 3人して顔を見合わせ、ケイが電源を入れる ……電源が入る一瞬、画面の中に白っぽい人影が見えたのは気のせいだろうか 画面の表示は『圏外』。ケイの着信履歴は、遊びに誘ったヒナからの着信が最後になっていた 逃げるように山を降り、ケイはその足で携帯を変えに行った 今でもたまに3人で遊ぶのだが、誰もあの山には近付こうとしない
