第32話『鏡』@ 葛◆5fF4aBHyEs 様
春。学年が3年に上がった時、同じクラスになった同級生の中に、1年の時も同じクラスだったエリちゃん(仮名)が居た といっても自分は最初、それが『エリちゃん』だとは気が付かなかったのだけれど 1年の時のエリちゃんは、黒髪を二つに束ね、泣きぼくろが印象的な眼鏡を掛けた大人しい女の子で 人見知りが激しいのか、話しかけるとドギマギする小動物系の子だった 2年はクラスが別だったからよく知らない 3年になったエリちゃんは、髪は緩くウェーブのかかった濃いめのブラウンになり、眼鏡はコンタクトに代わり、化粧もバッチリの社交的で明るい女の子に変わっていた 実を言えば1年の時、どこのグループにも属さない余り者同士、ペアを組む際には必ずお世話になっていたので、同じクラスと知って密かに「やった!」と思っていたのだけど ……エリちゃんは、2年の時に同じクラスだったというカナミさん(仮名)たちのグループと親しくなっているらしかった それにしても、雰囲気が一変したからかな? エリちゃんを見てると、何か違和感がある 毎回、本当に微かな違和感で、言葉には表現できないのだけれど、その違和感は砂のように自分の中に積もっていった エリちゃんとペアを組むことになったのは、文化祭の時だ 各クラスから2名ずつ、文化祭の実行委員を選出するのだけど、立候補したエリちゃんが、何故か自分を指名してきたのだ 「1年の時は、よくこうして二人でお弁当食べたよね」 打ち合わせをしながら、エリちゃんがお弁当を取り出す 「そうだね」 自分も購買で買ったパンを取り出しながら、拭えない違和感を抱いたままエリちゃんを見る 見た目も性格も変わったけれど、右目のところの泣きぼくろは変わらない。ちょっと照れ臭そうに笑う仕草も、昔のままだ 自分でも、何に違和感を覚えているのか解らない でも、「何かが違う。何かが可笑しい」と確信に近い思いを抱いている 「エリ、ジュース買ってきたよ」 カナミさんが、エリさんにジュースを手渡す ……可笑しいと言えば、カナミさんも様子が可笑しい 3年になるまで同じクラスになったことは無かったが、それでも、同じ学校なのだから、見かけたことはある もっと派手派手しく、気が強そうな瑞々しい雰囲気だった彼女が、エリちゃんに畏縮してる……? 「ありがとう」 エリちゃんがジュースを受け取ると、カナミさんは妙な笑いを浮かべて「じゃ、じゃあ……」とそそくさと去っていった エリちゃんがお弁当を開け、箸を右手で持つ その瞬間、違和感の正体を理解した 「エリちゃん……右利きだったっけ……?」 そうだ。確かにエリちゃんは左利きだった。「左利きって天才が多いらしいよ」……そんな会話をしたはずだ そうだ。そういえば、エリちゃんの泣きぼくろは左目の方にあったはずだ。「利き手の側なんだね」というやり取りを思い出す 口の中が急速に乾上がるのを感じた 目の前で、こちらの様子など意に介さず、エリちゃんがお弁当を食べている 「……あ……なた、誰……?」 漸くそれだけ言葉を絞り出すと、『エリちゃん』はニヤリと笑った ……それは、かつてのエリちゃんの頃には見なかった笑みだ 「……私は、『なりたい自分』になっただけよ。『自分じゃない、自分』に」 その声は、エリちゃんとは似ても似付かなかった 後で知ったことだが、2年の時、エリちゃんはカナミさんたちのグループに、いじめられていたのだそうだ その後、何があったのかは知らない ただハッキリしていることが一つだけある 1年の時、一緒にお弁当を食べたエリちゃんは、もういない
