第37話『夜烏』@ 薄荷柚子◆CYOadRFefE 様

我が家では「夜烏が鳴くと良くない事が起こる」と言い伝えられている。
夜烏とは読んで字の如く「夜に鳴く烏」の事だが、
不吉の前兆の夜烏は、真夜中に一声だけ鳴くという。

私の伯父は昔、夜烏を聞いた。

夜中にトイレに起きた時、家の中にもかかわらずはっきりと
「カァー…」と聞こえたのだそうだ。
翌朝その話をすると、伯父の祖母が顔色を変えた。
「少しの間、外出は控えなさい」
祖母は真剣そのもので、とにかく外に出るなと言う。
伯父は言い伝えなど信じていなかったし、会社員がそんな理由で休む訳にもいかない。
ただ、幸か不幸か連休初日だった為、休みの間は出かけないという事で祖母に納得してもらった。

何事も無いまま迎えた連休最終日、伯父の学生時代の友人A、Bが遊びに来た。
たまたま近くまで来たので寄ったのだと言う。
暇を持て余していた伯父は大喜びだったが、祖母は良い顔をしない。
「物忌み中に人と会うものじゃないよ」
伯父は祖母の言葉を無視して友人達を招き入れ、夕食を共にし大いに語らった。
上機嫌で二人が帰った数時間後、伯父に電話があった。
先ほどまで一緒にいた友人Bからだ。

「Aが死んだ」

伯父の家を後にし二人で帰る途中、Aは車に飛び込んだのだそうだ。
伯父は突然の訃報に戸惑いながらも、最期に自分に会いに来てくれたんだな…と涙した。
だが、それは違うとBは言う。伯父の所に行こうと言い出したのはBなのだそうだ。
その上自殺ではないとも言う。
その根拠は、AとBは卒業後も頻繁に会っていたのだが、
Aは仕事も家庭も順調で、死ぬほどの悩みがある様には見えなかった事。
そしてAが車に飛び込んだ時の状況だ。

AとBは駅に向かい、夜道を歩いていた。
会社での失敗談で盛り上がり、二人で大笑いしたそうだ。
それはAが話している時の事。

「そうしたら課長が書類をわs

そのまま車に飛び込んだ。
話の区切りどころか単語の途中で、Aは車に突っ込んで行った。
その変貌ぶりがあまりに唐突で、Aの意志とは思えなかった、とBは語る。
「何か…病気とかの発作だったんじゃないか?」
そう疑問を投げかけても、Aは病気なんかしていなかった、とにかく自殺ではないと主張するB。
伯父は少し落ち着く様に促して、電話を切った。

友人の不可思議な最期。受け入れる事が出来ず呆然としていると、祖母がどうしたのか、と声をかけてきた。
Aの事を聞いた祖母は沈痛な面持ちになり

「厄を受けたんだね」

と呟いた。
伯父は冷水を浴びせられた様な寒気を覚えたと言う。

伯父の聞いた夜烏とAさんの死に、因果関係があったのかは分からない。
ただ、伯父はその後40年近くAさんの供養を欠かしていないのだ。

ちなみに伯父の祖母が亡くなった時には、私の母が夜烏を聞いている。