第23話『だるまさんがころんだ』@ もふ太郎◆YAOzh1h34wV4 様
とある地方都市でのことだ。 K町にかなり勾配のある坂があるのだけれども、そこでちょっとした噂話が広がったことがある。 夕暮れ時になるとその坂の下に、たまに達磨が置かれていることがあるんだそうな。 それに気が付くのは、必ずその道を登ろうとしていて、たった一人でいる時。 ぽつんと道の真ん中に置かれている真っ赤な達磨はどこか寂し気で、ついつい振り返って見てしまう。 しかし、決して振り返ってはならない。 登りきるまでに3回振り返ると呪われる。 そんな、子供だましの他愛もない噂話だった。 ある事が起きるまでは。 その日、ある青年が夕方に坂の下で達磨が置いてあるのを見つけたそうだ。 青年は地元の人間で、最近流行り始めたその噂を知っていた。 なので、本当に置いてあるのかと驚いたがすぐに馬鹿馬鹿しい気持ちになった。 だもんで、無視してそのまま坂を登っていったのだけれど、なぜか無性に後ろが気になって仕方がない。 視線。 背後から見られている感じがする。 つい、振り返る。 誰も居ない。達磨があるだけ。 再び前を向いて歩きだすとやはり視線を感じるが、振り返ると達磨しかない。 そういえば、もう一回振り返ると呪われるんだっけ。 そこで青年はちょっとした悪戯を思いついた。 このまま後ろ向きで登ったらどうなるんだろう。 青年は達磨を見つめながら、後ろ向きでそろそろと坂を登りだした。 しばらくして坂の途中辺りに差し掛かったころ。 何も起きなくて退屈になった青年が普通に歩こうかと思い始めた時、あることに気が付いた。 距離が、縮まっていない? 坂を登りだして十数メートルは登っている。なのに、目線に入る達磨の大きさは、最初に振り返った時のままだ。これだけ離れれば十円 玉くらいの大きさに見えていいはずだ。 ……違う。大きくなっている? 3メートル程の道幅の、半分くらいを達磨が占領していた。 まさか、まさか。 速足で、でも視線を外すことが出来ずに後ろ向きのまま登る。 登る。 変わらない。 登る。 変わらない。 いつのまにか達磨の幅は道幅いっぱいに広がり、高さも角にあった電信柱と同じくらいになっていた。 そして。 達磨が動いた。 ずうぅぅぅん。 達磨がジャンプして坂を登って来るのである。地面に落ちる度鈍く地響きがする。 青年はそれから逃れようと必死で坂を登ったが、後ろ向きというハンディのままではそうそう早くは進めない。 すぐに追いつかれてしまった。 気が付けば。 達磨は青年の目と鼻の先まで追いついていた。既に巨大、といっても差支えない程の大きさにまで膨れ上がっている。 そして。 達磨が青年の目の前でジャンプしたかと思うと、そのまま青年の頭上へと落ちて来た。 「ああああああああぁぁぁァァァァアアアアアアアアア!!!!」 巨大な達磨に押しつぶされながら、青年は悲鳴とうめき声の混じり合った声を上げ、気を失った。 青年が再び目を覚ました時には夜になっていた。辺りは暗く、電燈と周りの家々の明かりだけがぽつぽつと点っている。 しかし、それにしては目の前が暗いことに青年は気が付いた。 やがて思い知る。辺りが暗いのではなく、自分の目がおかしいのだと。 青年の左目は視力を失っていたのだ。ちょうど、達磨の目が片目しかないように。 その達磨がなんなのかは、誰にもわからない。 もしもあなたが坂道で達磨がぽつんと置かれているところを目にしたときは、決して振り返ってはならない。 青年のように、大事な片目を失いたくなければ。 でも、あなたがそれでも構わないというのであれば、ぜひ振り返ってみて教えてほしい。 三度振り返ったら、一体何が起きるのかを……。
