第55話『出られないよ』@ 雷鳥一号◆jgxp0RiZOM 様


知り合いの話。

ある夜、彼女がそろそろ寝ようかと考えていると、携帯電話が鳴った。
すぐ近所に住んでいる友人からだ。
「トイレから出られなくなった、助けて!」という内容だった。

詳しい事情を聞くと、次のようなことを言う。
「トイレに入っていると、ドアがいきなりガタッと音を立てたの。
 驚いて開けようとしたんだけど、何かに押さえられているかのように
 どうやっても開かなくなってるの!」

「何とか開けようと悪戦苦闘していたんだけど、その時聞こえたの。
 『出られないよ』って笑う声が! もう恐くてドアに近寄れない。
 お願いだよー、助けに来て!」

取りあえず「落ち着け」と伝え、友人宅へ向かうことにした。
女一人では流石に不安なので、隣部屋に住んでいる男の後輩を叩き起こし、
一緒に行って貰うことにする。
到着すると、勝手知ったる鍵の隠し場所を探ってみた。
鍵はちゃんといつもの隠し場所にある。
誰かがこれを使って侵入した訳ではなさそうだ。

後輩と共に上がり込むと、トイレの方から啜り泣く声が聞こえた。
慌てて駆け寄ると、トイレのドアに色々な物がつっかえており、
中からはまったく開かないようになっていた。

二人で障害物を取り除くと、中から青い顔の友人が転がり出てくる。
「ありがとう! 本当に恐かったよー!」
泣きじゃくる友人を宥めながら、注意をする。
「トイレの前にこんなに物置いちゃ駄目だよ」と。
友人はキョトンとした顔になり、答えた。
「こんなに沢山の物、廊下に出しっ放しになんかしてないよー」

そこで、それまで黙っていた後輩が口を挟んできた。
「これって明らかに、つっかえ棒になるように誰かが置いてますよ。
 全部が全部、あんなにきれいに並ぶ訳がない。
 ちゃんと同じ長さの物を揃えてあるみたいだし」

後輩の言っていることが理解できると、二人は真っ青になった。

「やっぱり誰かが屋内に入り込んで、悪さしたんじゃないですかね。
 先輩、鍵を外に隠すのは止めた方が良いですよ、絶対」
真面目な顔でそう忠告してくれた。

「先輩も一応、女性なんですから」
一言多い後輩だった。

それからすぐに、友人は引っ越した。
屋外に鍵を隠すことも止めた。
その甲斐あってか、あれから恐い思いはしていないらしい。
しかし「今でも時々思い出して気持ち悪くなるよー」と言っているそうだ。