第41話『光る虫』@ 葛◆5fF4aBHyEs 様

仕事を終えて、仲の良い同僚と連れ立って駐車場に向かう
「お疲れ様ー」「また明日ね」
互いに手を振って車に乗り込もうとした時、ふと動きを止めた
いつの間に現れたのだろう。同僚の周りを小さな光る虫のようなものが飛び交っている
少なくとも、一緒に駐車場まで歩いて来る時には気付かなかった
(何だろう……?)
飛蚊症というか。似ていると言えば似ているのだけれど……
何故か猛烈に嫌な予感がして、思わず同僚を呼び止めていた
「あのっ、そういやさ、こないだ言ってた本、もう買った?」
「まだだけど……」
面食らったように答える同僚が怪訝そうに眉をひそめるが、深く考える暇もなく矢継ぎ早に自分は次の話題を振る
「あ、そういえば、この間もらったお菓子、超おいしかったよ!あれ、どこで買ったの?」
「袋に書いてあったと思うけど……」
「あ、そ、そうなんだ。あ、そういえば、スーパーの特売日っていつだっけ」
「今日だよ?」
同僚は家庭持ちのため、『早く帰って夕飯を作りたい』というのが見え隠れしている。結局5分近く立ち話をした後、
「ごめん、そろそろ帰るね」
と同僚が切り出した
「う、あの、長話してごめん。……でも、気をつけて!気をつけて帰ってね!」
「うん。じゃ、また明日」
駐車場から出る同僚の車を見ながら、何故かそわそわして落ち着かなかった

晩ご飯を食べ終わった頃、同僚から電話が入った
『ちょうど私が通る5分くらい前に事故があって、すごい渋滞に巻き込まれちゃった』
いつもは20分の道のりが、1時間近くかかったという
ごめんね、と謝って電話を切った

結局、あの光る虫が何だったのかは解らない
あれ以降、同僚の周りでも見ていない