7 生き人形~小劇場ジァン・ジァン~

そしたらそうこうするうちに、渋谷にあるジァン・ジァンという小劇場で公演の話があった。
当時のジァン・ジァンでしたらみんながやりたがった。
それで、やりましょということになったんですよ。メジャーな場所ですしね。。

その時に私の竹馬の友が手伝いに来てくれたんですよ。
その彼も渋谷の人間ですから。
それで一連の作業が済んだ時に彼が私のところへ来て
「稲川さ、黒子って何人いる?」って言うんですよ。
黒子は少女人形三人、少年人形三人。舞台監督が一人だから、七人だなって言ったんですよ。
そしたら友人が「おかしいよ、八人いるよ」って言うんですよ。

ジァン・ジァンの壁っていうのは、ご存じの方も居るかもしれないですけど、白い壁があるんですよ。
その壁の前に黒い幕が引いてあるんですよ。
彼が言うにはその壁との間に一人黒子が居るって言うんですよ。
「お前それ人に言ったか?」って言ったら、
「言ってない」って言うんで、
「お前それ人に言うなよ」
って私言ったんですよ。みんなそれじゃなくても色々な事があって気にしてますからね。

それで私自分の出番がきたから行ったんですよ。
それでフッとその友人が言ってたことを思い出して、横を通る時に見てみたんですよ。
壁がある、幕がある。少しの隙間ですよ。
見るともなく見ていたんですよ。
言われてるから見るとなんだか居るような気もするけど、なんせ真っ暗ですからね。
見えるわけがない。
そしたら明かりが点々と二つ付いているんですよ。

あぁそうか暗幕に穴が開いているんだなと思った。
明かりが無いんだから。
それでそれを見ていたんですよ。
そしたら点々と付いているその明かりが、こっちを向くんですよ。

こんな馬鹿な話は無いんだ。
漏れてる明かりだったら動くわけがない。
それなのにその点々は動くんですよ。
その時私は勝手に、「あぁそうか、舞台監督のメガネが明かりに反射しているんだな」って思った。

でも冷静に考えれば、明かりなんてないんですよ?
でも居たんですよ..

何だかんだで出番が来た。
暗転というやつをやった。
真っ暗になって所定の位置まで行って、明るくなったら始まるというやつですよ。
待っていると少女人形が下がっていく。
黒子が三人いる。
舞台には少女人形に三人付いているわけだ。
前野さんを含めて三人。

「稲川さんこっちです」と呼ばれた。
よく見ると舞台監督がそこにいる。
舞台監督がここにいるならば、さっきの動く明かりはなんだったんだ。
舞台監督はここにいるんだから。

..

その後もあれこれ事故はあったんですが、ようやく無事終わった。
舞台自体の評判も良かった。
当時お世話になっていた写真家の立木先生ね、あの立木義浩さんも舞台を見にいらした。
フランス人のモデルさんを連れてきてくれた。
そしたらそのフランス人のモデルさんも「素晴らしく綺麗な舞台だった」と褒めてくれたんですよね。
とても綺麗な舞台だったんですよ。

無事終わった。

前の話へ

次の話へ