2 生き人形~南こうせつさんの涙~

事の始まりはもうふた昔前以上なんですよ。
私がニッポン放送のオールナイトニッポンの二部をやることになって、二部というのは三時から五時までです。
夜中に局に行くわけなんですが、真っ暗ですよね。

当時ニッポン放送の怖い話というのがありまして。
それをお聞きになっていた方もいると思いますからあえて言いませんが、
いつだったか定かではないんですが、そろそろ暖かくなってきたかなって季節だったかな?
ごめんなさいね、これも定かではない。

深夜ニッポン放送に私行きましたよ。
もちろんマネージャーが居るわけでもない、誰が居るわけでもない、たった一人でですよ。
で、(今日はこんな話をしようかなぁ)なんて思いながら六階のデスクに行ったんです。
デスクが並んでいる、各番組のデスクが並んでいる、もちろん深夜だから誰も居ませんよ。明かりも暗いんだ。
そんな六階のデスクで、さほどの用はないんだけども、あれこれ机の上においてあるファンレターなんかを見ていたんですよ。

その時「ん?」と思った。泣き声がするんですよ。
男の泣いている声が聞こえるんですよ。おいおい泣いているんですよ。
真夜中に男の泣き声がするなんて普通じゃないから、一体なんだろうなって思った。
ハガキを選んでいる手を休めて、なんだろうと思ってひょいっと見たら、向こうの方の暗闇に男の人の影が2つ見えた。
どうやらその片方の男が泣いているんです。そして片方が慰めているらしいんだが、一体何が起きたんだろうと思った。
珍しいですよ、ラジオ局で人が泣いているなんて。そんなこと普通はないんですから。

悪いなって思ったんだけども、気になったもんだから近づいていった。
驚きましたよ。
慰めているのは、私も付き合いがあって親しい東さんというディレクターでしたよ。これ実名です。
今日はみんな実名でやります。一切仮名無し。生だからできるんですよ。

で私が何を驚いたかというと、彼が慰めている相手というのが当時飛ぶ鳥を落とす勢いの『かぐや姫の南こうせつさん』。
その南こうせつさんが泣いている。

私が近づいて行ったら、慰めている方の東さんが「おー!淳二」って声をかけてくれたんで、
「どうしたんですか?」って聞くとは無しに聞いちゃった。

当時南こうせつさんも深夜のオールナイトニッポンをやっていて、ファンレターもたくさんくる。
そんなある日、そのファンレターを南こうせつさんがラジオで読んでいたそうです。
私もそれを聞いていましたよ。

そのハガキというのが、
『こうせつさん初めまして。私はこれこれこういう少女です。
私はあなたの大ファンで、○月×日にあなたがコンサートにいらっしゃるので、とても楽しみなんです。
でも多分私はそれに行けないでしょう。
何故なら、私はこれを病院のベットの上で書いています。
多分私の命はあなたがこちらにコンサートに来る前にもう亡くなっている事と思います。』
というような手紙なんですよ。

ショッキングですよね..その手紙をこうせつさんはラジオで読んでいた。
手紙はまだ続くんですよ。

『先日私の父が、私を海へ連れて行ってくれました。私に最後の楽しみをくれようとしたんでしょうね。
青い海で日が当たってとても気持ちが良かった。
父親の気持ちがよくわかったから、私は思いっきりハシャいでみせた。嬉しい顔を見せた。
何故なら、私はお父さんよりも先に死んでしまうから。
自分の愛するお父さんに私の喜びや私の笑顔を精一杯見せてあげた。
たくさんの思い出に残してあげたかった。
お父さんの思い出の為に私は思いっきりはしゃいで喜んでみせた。
でも、私が後ろをふっと見た時に、お父さんが背中を向けるのが見えた。
何気なく背中を見たら、その背中は細かく震えていました。父は泣いていました。』
というような内容の手紙なんですよ。

こうせつさんがね、
「何言ってるんだ!そんな弱気でどうするんだよ!頑張れよ!それで必ず会場に来てくれよ!」
って言ったんですよ。私もそれをラジオで聞いていましたよ。

ところがそれからそんなに日数は経たなかったなあ..
やはりオールナイトの番組でこうせつさんが手紙を読んだんですよ。

『こうせつさんこんばんは。覚えていらっしゃいますか?
あなたが番組でハガキを読んでくれた、あの病室から手紙を書いた○○の友人です。
彼女は亡くなりました。
でも、こうせつさん。あなたのコンサートは彼女と行きます。彼女の写真を持っていきます。
素晴らしいコンサートを聴かせてください。』

こうせつさんは泣いていたね。手紙を読みながら。
それを聞いていた私も泣けた。

それでしばらくして、そのコンサートがあったんです。
当時はみんなテープを持ってコンサートを聴きに行っていた時代でした。
そのコンサートの主催もニッポン放送で、コンサートからニッポン放送に帰ってきたら、
あっちからこっちから電話が鳴りっぱなしですごいんですよ。

曲と曲の間に間奏がありますよね?
その間奏でギターが少し鳴っているんですが、そこに女の子の声がするって言うんですよ。

今はないんですが、当時は集音マイクっていうのがあって、その集音マイクがザワザワする観客の声も拾うようになっているんですよ。
もちろんはっきりとは拾いませんよ?高い位置にあるんだから。会場のノイズを撮っているんですよ。
そこから入ったとしか考えられないんですが、女の子の声が入っている。

それで、その女の子の声を聞くと、『私にも聞かせて』って言っているんですよ。
あまりにもあちらこちらから電話がかかってくるもんだから、
一体どういうものなんだろう?と思って、こうせつさんが東さんに頼んでマザーテープをニッポン放送で聞いたんですね。
確かに曲と曲の間の間奏のところで、『私にも聞かせて』って言っている声が聞こえたそうですよ。
私も聞きました。間違いなく声が聞こえているんですよ。

※こちらがその時の実際の音声のようです。YouTubeよりお借りしました。
スマホで再生出来ない方はこちらのYouTubeに動画がありましたので、どうぞ。


でもそれはまず不可能なんですよね。
あんな高い位置にある集音マイクに、そんなちっちゃな声で、声が入るわけがない。
でも確かに声は入っていたんです。
それで女の子のことを思って、こうせつさんが泣いちゃったんですよね。

その女の子についての噂話は色々とありますよ。
実はあれは交通事故で亡くなったんだとか..
でも私はこの話を信じる。
何故ならば、本人のところで本人に聞いているからね。ニッポン放送でね。

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