16 生き人形~怪談と現実の間~

そんな事があってから、また何年か経ったんだけど、その例の仲間うちの女の子ね。ハルミさん。
この人の弟さんの結婚式で、わたし沼津に行ったんですよ。
そしたら、「おじちゃーん」って少し大きくなってたアユミちゃんがとんでくるの。
「おお!おっきくなったねえ!」って声をかけたら、アユミちゃんがはいってわたしにモノクロの写真を見せるんだ。
どうしたの?って聞いたら、おばあちゃんのねタンスに入ってたのって言うんですよ。

その写真っていうのが、わたしが写ってる。あの遥か昔の舞台。
わたしが居て、人形がいる。そして今わたしの所でマネージャーやってるんですけどマエノさんの弟子が写ってる。
3人が写ってる。
ところが、おかしいんですよ。わたしと人形とは芝居をやってますけど、マエノさんのお弟子だった今はうちのマネージャーやってるこの彼とは舞台をやった事がない。
ましてや、彼は人形と絡んだ事はない。なのに、わたしがいる、彼がいる、人形が写ってるんだ。絶対にありっこない写真なんですよ。3人で写ってるのは。
なんだこれって思ってたら、ちょうどそこにお母さんが来て、アユミちゃんにとったらお祖母ちゃんですよね。

お母さん「いや、稲川さん不思議なんですよ。タンスを開けたら入ってた」って言うんですよ。
それを、アユミちゃんが『あ!お姉ちゃんだ』って持って行っちゃったって言うんです。そしてアユミちゃんが大事にしてるんですよって。

そしたら、アユミちゃんの母親のハルミちゃんが来て、
ハルミさん「稲川さん..でも心配なんです..人形って右手右足怪我しますよね?」って言いながら、アユミちゃんの右腕を見せた。
アユミちゃんの右腕を見たら、傷が2本ある。
一回怪我して手術したら、またすぐに怪我をした。それで2本傷がある。一個は縫ったそうです。
その時はそれで話は終わったんですが、それからしばらくして電話がきたんですよ。

ハルミさん「アユミがまた事故にあっちゃった..ベンツにぶつかって、フロントウィンドウにぶつけて。近くの交番のお巡りさんも死んだと思ったって。でも調べたけど命に別状ははないって。」
でも、その時右足だけ怪我したって言うんですよ。
ハルミさん「で、心配でね。アユミが大事にしている写真だけど、わたしアユミには内緒で神社に持っていったんです。」って言うんですよ。
ところが、数日経ったら神社から電話があって、この写真お引き取り願えませんか?って言われたって言うんですよ。変ですよね。

で、わたし彼女に
「このツアーのはじまりが秦野なんですよ。忙しいけど、会いにこないか?」って言ったんですよ。
そしたら、「うん。行きます。」って言う。

それで、アユミちゃんも13歳になってた。大きくなった。
それで、ハルミさんが言うには、「うちのアユミはよく物を当てるんです」って言うんです。
で、人形とは絶対に会えるって言ってるって言うんですよ。
どうやら、彼女の頭の中には、人形の居る場所がわかってるらしいって言うんです。
毎回同じ事を言う。何年間か同じ事を言ってるって。

で、秦野に来ましたよ。
ハルミちゃんがアユミちゃんを連れて。13歳になってアユミちゃんも大きくなってましたよ。
なんのかんの話しをしているうちに、お母さんのハルミちゃんが「稲川のおじちゃんに言ったら?あんた人形に会えるんでしょ?」ってアユミちゃんに言った。
『うん。会える。お姉ちゃんに会える』
「じゃあ、お姉ちゃんどこにいるの?」
『うん。お姉ちゃんは長い坂道があって、瓦屋根のついた白い塀がある。高い丘の上に古い屋敷がある。お侍さんの住んでた屋敷に違いない。今は廃屋になっていて誰も住んでいないんだけど』
って言いながら、机の上に絵を書いた。こういうお家でって。
『その誰も住んでいないお家の中に居て、周りに雑草がたくさんあってね、お姉ちゃんそこで待ってるんだよ』って言った時に、
聞いてたスタッフが真っ青になってるんですよ。彼女が机に書いた絵、その言葉、それ、このセットそっくりだったんですよ。

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