15 生き人形~その後の話~

それでそれから十年程の月日が流れたんですよ。

その日は、うちで集まってワイワイやってたんですよ。
そしたら、深夜に電話が鳴ったんだ。
深夜にかけてくる人なんてだいたいは親しいヤツですからね。
電話に出ましたよ。

そしたら、
「あ!稲川さん!ハルミです。」って言うんだ。
そう、我々を戸田の海に案内してくれた、あのおじさんの民宿に案内してくれたあの子ですよ。
お母さんが人形の着物を作ってくれた、その彼女から。
彼女も結婚してアユミちゃんって女の子が生まれて、幸せに暮らしている。

稲川さん「いやあ、随分しばらくだね~」
ハルミさん「ええ」
稲川さん「で、なに?」って聞いたら
ハルミさん「いやあ..実は..稲川さん..アユミがね..おかしな事言うんですよ。夜中にハッキリと寝言を言うって言う。寝言は邪魔したら駄目だって言うから我慢してたんだけど、なんだか怖くなっちゃってね..」
稲川さん「どんな寝言言うの?」って聞いたら、
ハルミさん「夜中に、誰かと喋ってる」って言うんですよ。
『ううんうん。そっかーお姉ちゃん。それでね..あのね..』
はじめは寝言かと思った。ところが、ふっと目を開けてみると、布団にチョコンと座って一方方向を見ながら喋ってるんだって。嬉しそうに。
気持ち悪いなあと思ってたんだけど、それが続いたもんだから、とうとう我慢出来なくなって「誰と喋ってるの!」って聞いたら、
「お姉ちゃんとお話してる」って言うんですって。
「お姉ちゃんどこにいるの?」って聞くと、「お姉ちゃんそこに居る」って言うんですって。

ハルミさん「稲川さん、わたしなんだか怖くてね..アユミが喋ってるたびにガタガタガタガタ震えてるんだけど、なんでしょうね?そんな人知り合いいないし」って言うから、
稲川さん「そのお姉ちゃんがどんなお姉ちゃんか聞いてみた?」
ハルミさん「じゃあ今度聞いてみます..」
稲川さん「じゃあ聞いたら教えてね」
ハルミさん「はい..」
それでその日は電話切ったんです。

電話来ましたよ。
例によってアユミちゃんが『ううんうん。そっかーお姉ちゃん。それでね..あのね..』って話している。
その時は堪えて、次の日に「昨日お姉ちゃん来てたね?」って聞いたら、「うん」って言うんだって。
「お姉ちゃんってどんなお姉ちゃん?」って聞いたら、
『お姉ちゃんはね、小さなお姉ちゃんでお着物きてるんだよー!で、こういう頭でオカッパでー!』って言うんだって。

ハルミさん「稲川さん..」
稲川さん「じゃあ、お姉ちゃんは何の用事があるか聞いて?」
ハルミさん「はい..」
で、電話を切った。

アユミちゃんが、また布団の上に座って話してる。でも、母親のハルミさんにしてみたら、何も見えない。
でも彼女は一方方向みて、嬉しそうに話してる。
怖いけど我慢して次の日に、「アユミちゃん昨日お姉ちゃんきたね?」って聞いたら「うん」って言うんだって。
「お姉ちゃんに聞いてくれた?お姉ちゃんは何の用事があってアユミちゃんの所に出てくるの?」ってアユミちゃんに聞いた。
そしたらアユミちゃんが、『お姉ちゃんはねえ..お姉ちゃんのお母ちゃん探してるんだってー』ってアユミちゃんが言った。
「お姉ちゃんのお母ちゃんって誰?」って聞くと、
『お姉ちゃんのお母ちゃんはねえ、お姉ちゃんのお着物作った人だってー』ってアユミちゃんが答えたそうですよ。

ハルミさん「稲川さん..うちの母が人形の着物作ってるんですよね?で、とっても気にしちゃって..で、人形に会えないか?って言うんですけど..会えないですかね?」って言うから、
稲川さん「わかったよ。ちょっと待ってて。」

で、すぐに、随分しばらくぶりなんですが、その人形をお作りになってるコミヤさんに電話しましたよ。
稲川さん「夜分遅くに誠に申し訳ありません。急な事があったんで..実は人形の..あれこれこういう事で人形の着物を作った方なんですが、たまたま東京に行くんで、人形に会いたいって言うんだけど先生構いませんかね?」
って聞いたんですよ。ハッキリは言えませんからね..
コミヤ先生「ああ、それは構いませんよ。わたしいつもここにいるから。」
稲川さん「ああ、そうですか。」
って言って電話を切った。

すぐにハルミさんに電話してやろうと思ったんだけど、あれやこれやあって、仲間と喋ってた。
そしたら電話が鳴るから、電話に出ると、さっき話してたコミヤ先生からで、
コミヤ先生「いや稲川さん、申し訳ない。おかしいんですよね..今あなたから電話を貰ったんで、見るともなく見にいったら、居るはずの人形が居ないんですよ。着物と一緒に。」って言うんですよ。

で、その頃からんなんですよね。わたしの事務所があって、事務所に女の子が居るんですが、会わない事も多いんですが、たまたま会った時に、
事務所の女の子「おかしいんですよ..いや、あの、暑いからドア開けておくじゃないですか?でもここんとこ3日位ですかねえ..色の白い女の子が覗いてるんですよ」って言うんです。
事務所は9階。そこには女の子住んでないんだ。
その時は、ああ、そうって話は終わったんだけど。

ある日用事で事務所に泊まってたんだ。それで、夜中だったかな。ごろ寝してたんですよ。
廊下があって、ちょうど頭の上あたりに大きなすだれみたいなのがあるんですよ。和紙が貼ってあるような大きなやつが床のあたりまであるんですよ。
ガシャンって音がしたんですよ。あ、ドアだなあって..思ってたら、トットットットって足音が聞こえる。
マネージャーのがんちゃんってのが居るから、「あーがんちゃんかい?」ってわたし声をかけたんです。でも返事はない。誰もいない。
誰もいない。たった今自分の頭の上を歩いていったんですよ?

ところがまた何日かしましたら、またガチャンって音がしたんですよ。そしてまた足音がした。
今度は気がついて、やめようと思った。
それでね、声はかけないで、すだれをめくってみたんですよ。内心怖かったけど。
誰もいない。ただ、確かに水は溜まってたね。

前の話へ

次の話へ