13 生き人形~戸田の民宿~

その日実は私ね、大阪で友達と一杯やって、一泊して次の日東京に帰る予定だったんですよ。
っていうのも、次の日の東京の仕事が夕方だったから。
でもそんな一杯やって一泊して帰るっていう状況じゃなかったな。
でそのマエノさんにね
「マエノさん、俺泊まっていこうと思ってたけど、俺やめたから。ちょっと付き合わないか」
って声をかけたんですよ。
で、何?って言うから、ニシイズにヘダっていう海があるんですよ、綺麗な。
富士山が見えて。
で、我々の仲間内の女の子がそっちに住んでいるんですが、その子のおじさんが民宿をやっているんですよ。
綺麗な民宿だそうでね。
まぁ行ったら本当に綺麗でした。
そこにうちの女房子供、うちのマネージャー、それからロス・インディオスっていうバンドのリーダーと奥さん、それから何人か。
遊びに行ってたんですよ。

それがあったから、気分転換しようと思って。
「マエノさん、ちょっと遊んでから行かない?」って言ったら
マエノさんが「ああ..よかったら連れていって」って言うんですよ。

それで、番組終わったその足で新幹線のこだまの切符買いましたよ。
飲む予定だった、大阪の友達にはもちろん断ってね。
ところが不思議なのが、これ信じてくれなかったら信じてくれなくていいんですよ。
ABC放送から新大阪まで30分とかからないんですよ。それで新大阪について切符買ってすぐに新幹線に乗ったんだ。
ところが、三島に着いたらそのコダマ最終だったんですよ。
本来はバスに乗って、船に乗り継いで戸田に行くんですよ。当時は。
ところがもうバスはない。船もない。タクシーお願いしたら、陸の孤島だからって断られて弱っちゃった。
それで、その友達の家に電話したんですよ。
そしたら、その女の子の友達が、お父さんが迎えに行ってくれるからって言うんですよ。
悪いけど、待ってましたよ。
お父さんが迎えに来た。それで御礼を言って、車に乗っけてもらって戸田まで行きましたよ。
この途中が気持ち悪かったなあ。窓の周りを白いものがなんだか飛ぶのが見えるんですよ。
多分ムササビかなあ..と思ってたんですが、やけに飛ぶんですよね。

するとマエノさんが、「あ..あ..」と声を出すから、わたし「やめなさいよ」って言ったんです。
お父さん地元の人だし悪いからって。
人形を布に包んだまま、トランクにいれてるのをマエノさんは気になってるんですよ。
あれこれ色々ありましたが、車は着いた。高台に車がついて、下におりていく。
そのおりた所に民宿が建っているんですよ。もう、早くみんなの顔が見たいから、わたし先に行っちゃった。
「どうもー」って言ったら、なんだかみんなシーンとしてるの。
どうしたの?って聞いたら、なんだかわからないけど、そんな気持ちになっちゃったって言うの。

そうこうしている所に、マエノさんが人形を持ってきた。
で、みんなにこんにちはもこんばんはの挨拶もないんだ。
そのまんま、大広間に舞台があるんですが、そこに人形を持っていっちゃった。
で、人形を布から開きはじめたんですよ。

で、うちらの仲間みんなその人形の舞台見てますからね。
異様なものだから、みんな黙ってそこに近づいていったんですよ。
それで、遠巻きに人形が包みから出されるのを見てた。
マエノさんが一枚一枚毛布と布をどかしていくんですよ。
やがて人形の顔が現れた。
これは怖かった。

人形は綺麗な顔だったんですよ?違う。人形の目が腫れてるんですよ。それで人形の口があいてるんだ。凄まじく怖かったですよ。
何も声出なかったな。

そしたら、その民宿を紹介してくれた仲間内の女の子。その子のお家は着物に紋所をいれたりする由緒のあるお家なんだけど。
そのお母さんが、「じゃあ、わたしが魂をおさめる意味で人形に着物を作りましょう」って言われたんですよ。
「ああ、それはありがとうございます」って言って、人形に着物を作ってもらう事になった。

で、僕らはもう嫌ですから、次の日早々に帰ってきちゃった。マエノさんも人形を持ってきた。ロス・インディオスさんもそう。みんな帰っちゃった。

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