深夜のエレベーター
その昔なんですが、私深夜のラジオ放送のDJをやっていた事があるんですよ。
そんなある日、自分の出番じゃない曜日に局のディレクターから電話がきたんです。
電話に出ると、
「いやぁ..まいっちゃったよ淳二!まただよ?また俺エレベーターの中に閉じ込められちゃったよ..」
ってディレクターが言うんですね。
よくよく話しを聞いてみると、
ディレクターっていうのは遅くまで仕事をやってるんですよね。これは曜日関係ないんですよ。
それで遅くまで仕事をして、帰りにエレベーターに乗ったんですが、途中でエレベーターが止まっちゃった。
ドアは開かないし、帰り途中だからどうしようもないわけで、仕方ないから警備の人を呼んで助けて貰ったっていうんですよ。
「いやあ..参っちゃったよ。警備のおじさんに助けてもらちゃったよ…最近こういう事があるんだよなぁ…淳だけじゃないんだぜ?」
「あのエレベーター治してくれればいいんだけどなあ..」ってディレクターの彼が言うんです。
当時エレベーターが二機並んでましてね、一機は使い勝手がいいもんでみんなそっちを使ってたんですね。
それでもう一機のほうが問題のエレベーターなんですが、深夜使う人間もあまりいないし、
深夜に残る人間っていうのはせいぜい10人いるかいないかなもんですから、会社もあまり取り合ってくれないんですね。
でも、これが毎回毎回のようにエレベーターが止まる。
警備のほうも毎回毎回エレベーターの中に誰かが閉じ込められて助けてる訳でこれは気の毒で仕方ないって事でね。
それでしばらくして、ようやく会社が動いたんですよね。
「じゃあ、このエレベーター、深夜の誰も使わないような時間帯に修繕しましょう」って事で、
原因を調べないといけないから、業者のおじさんが二人来たんですね。
エレベーターを下ろして、一人が上に残って一人が下に降りていったんですね。
関係者だとか野次馬が数人その様子を見てたんですが、深夜だからそう人もいないんですよね。
作業員の人が作業をしに降りていくのをみんな見ているんですが、下のほうに何かが見えた気がしたっていうんですよ。
次の瞬間、「うぁぁっぁぁっぁぁっぁぁっっっっっっ」って下に降りていった作業がすごい声をあげた。
エレベーターの降りていくところは筒状になってますからね、その作業員さんの叫び声が響いて、上にいる皆も驚いた。
大の男が悲鳴を上げるなんて普通じゃないですからね。
みんな驚いていると、下に降りた作業員が、
「おーい、これダメだ。ちょっと来てくれよ。これダメだよ。人が、人が死んでるよ....」
って言ってるんですよ。
それでもう一人が慌てて灯りをつけて下に降りていった。
これは騒ぎになりましたよ。もちろん警察も来たわけだ。
エレベーターの下で何があったかっていうと、このエレベーター地下がなくて一階までなんですが、
一階の真下のちょうど機械のある部分。
その部分に、この放送局でアルバイトをしていた学生が死んでいたんですね。
どうやらこの彼は深夜に仕事をしていて、エレベーターに乗ろうとしたようなんですね。
それでエレベーターが来て、乗ろうとしたらエレベーターがなかった。
それで下に落ちて死んだんじゃないかって話しだったんですね。
けどじゃあ「毎回毎回止まったり閉じ込められたりするのは何なんだ?」って話しになった訳なんですね。
この亡くなっていた彼が自分が下で死んでいる事をみんなに教えたくて、それでこのエレベーターを止めたんじゃないかって声があった。
と、その声のもう一方で、はじめからエレベーターは壊れていて、その故障で学生君は亡くなったんじゃないか?
どこかにぶつけたかもしれないけど、下でしばらく生きていて、それでも誰にも気付かれず亡くなったんじゃないか?
そんな声もあったんですね。
調べてみましたら死後半年経っていたそうですよ。
男子学生でしたからね、局のほうもアルバイトが休んだって「ああ、男子学生なんてこんなもんだ..アルバイトだししょうがないや」そう思っていたわけだ。
で、親御さんも男の子ですからね。しばらく連絡がなくても元気にやってるんだろうって思ってた。
局も親御さんもそうですからね、誰も彼をあてにしていなかった。
でも、そうじゃなかった。
彼はずっとエレベーターの下で助けがくるのを待っていたんですね。
以来エレベーターは止まらなくなりました。そんな話しがありましたよね。