窓をたたく男

この話は私の学生の頃の話しなんですよ。
私の親友に後輩がいて、その後輩の彼は学校が違うのにしょっちゅう私の所へ来るんですよ。
それで、ある時『うちに来ませんか?』って言うんで、遊びにいったんですね。
それでまあちょっと飲んだりして、彼の家へ泊まる事にしたんですよ。

彼の家っていうのは板橋にある印刷屋さんなんですがね。
それで「こんな所でいいですかね?」って言いながら彼が板の間に布団を敷いてくれて、私はそこで寝ていたんだ。

それで、後輩の彼はは別の部屋で寝ているんだけど。
私の寝ている部屋は、なにせすごく散らかってるんだ。色々なものがあって。
よくもまあここまで汚くしてるなあと思った。2段ベッドがあるんですが、その上にもたくさん物がのっているんだ。

そこで私が寝てましたら、急にストーンと音がして、何かが落ちてきたんですね。
いや、そうじゃない。
わたしの寝ているすぐそばに、銃剣ってありますよね?
銃剣ってほら、兵隊さんがもってるやつ。兵隊さんが鉄砲の先につける。
あれがストーンって刺さってるんですよ。

(うおおおおおおお)って声を出したら、
「どうしました?先輩」って後輩がやってきた。

「おい、これなんだよ?」
「うああ、すみません;ごめんなさい。おかしいなあ..」って言うんですよ。

おかしいも何も危ないですからね。
っていうのも、彼はミリタリーなんとかクラブっていうので、ようするに戦争ごっこをするクラブに入ってるんですよ。
それで、色々なものを置いてあるんだ。
でも、ここに置いた覚えはないんだけどなあ..って言うんですよ。

「ここで寝てて大丈夫?」って聞いたら、「もう大丈夫ですから」って言ったんで、また布団に入って横になりましたよ。
布団の中でウツラウツラ...してたら、なんだか知らないけど呼吸が聞こえるんですよね。それが妙に気になるんだ。
苦しそうな呼吸がしてるの。後輩の彼のじゃないんだけど。
気になってるうちに、トントンって音がしたんだ。

音のほうを見たら、二段ベットがあって、その上に物が積んであるんですが、そのむこうに曇りガラスのような窓があるんですよ。
汚くてよく見えないんですが、誰かがそれを触っているように見えたんですよ..

(ん?)って思って..
そうか、印刷屋さんだから、むこうが工場で仕事をしている人が、裏を抜けていくんだなあ..って思ったんですよ。
その時に窓を触ったのかな?って思ったんですよ。

見ていたら、パパーンとまた音がしたんで、音のほうを見たら、白い手がスッと遠のいたのが見えたんですね。

なんだよ、俺起こされちゃったなあ..と思って。
なんかあったのかな?っても思ったけど、放おっておいた。

でもなんか寝れないんだ。
すぐそばに何かしらの気配があるんですよ。

翌朝ね、後輩の彼が朝早く起きてきたんですよ。
いや、「昨日はどうもすみませんでした!」って言うから、
「おお大丈夫大丈夫」って返した。

で、彼がトイレにいって帰ってきたんで、
「ここって印刷の人が通ったりするんだ?」って聞いたら、
「え?」って言われて、
「いや、昨日作業員の人に窓を叩かれてさ、俺昨日何かしたかな?」って聞いてみた。

でも後輩の彼は、作業員の人は、横を通らないって言うんですよ。
でも窓を叩かれてますからね?

「軍手かなにかをはめた白い手が見えたんだから。それで窓を叩かれたんだから。」って私言ったんだ。
「いや、印刷所で働いている人はみんな出口はむこうですし、ここは通れないですしね。」って彼は言う。

すると彼が、
「稲川さん、それって軍手じゃなくて、薄い白い手袋じゃありません?」っていうんですよ。

「実はね稲川さん、3ヶ月前にそこの路地で、タクシー強盗があったんですよ。それで運転手さんが刺されて..逃げてきたんですよね。
血だらけで這いずって。それでこの窓の下にきたんですよ。
その日僕は家にいて、窓を叩いたらしいんだけど、俺気がつかなかったんです..
翌日警察が来てわかったんですが、この窓の真下でその運転手さん死体になって発見されたんですよね。」

その時ふっと気がついた。
そうだ!窓は横からパンパンって叩かれたんじゃないんですよね。下から手が伸びて窓を叩いてたんですよね。
助けを求めて叩いていたんですよね。その時気が付きましたよ。

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