岡さん


わたしの親父が昔話してくれたんですがね、わたしの父親っていうのは日本通運に勤めてましてね。
小名木川という所なんですがね。わたしも行った事があるんですけど、すごく敷地が広いんですよ。

向こうには船がある、トラックがひっきりなしに行ききしている。クレーンがある。
そういう所で結構楽しかったなあ。

そういう時なんですが親父がね、うちの親父は事務の仕事だったので、建物のほうから下を見ていましたら
岡さんという年配の人が歩いてくる。

(ああ。。どこにいるんだろう?線路をずっと歩いていく。それで、ふっと思い出した)
確か岡さんは体を悪くして入院しているはずなんで、岡さん「いつ治ったの?」って聞いたら、
「え?」って同僚が来て見て、

稲川さん岡さん?あ、岡さんだね..あれ?入院しているはずなんだけどなあ..治ったんだ。元気そうだね?
それで、親父が岡さん、岡さんって声をかけた。

同僚が岡さん、おーい岡さんって声をかけた。
呼ぶんだけど、こっちを向かない。線路をずっと歩いている。
あれ?行っちゃったね..
と、行った所で、階段を登ってくる音がする。

で、扉があいて
「すみません!今連絡があったんですけどね、岡さん病院で亡くなりましたよ!」

「えええ?」って親父も同僚も見ているんですよ。
たった今、窓の外で、線路を歩いていった岡さんの姿を。
会いにきたんだねえ..って言ってましたよ。

前の話へ

次の話へ