お姉ちゃん遊ぼう

若い女性で、仮にA子さんとしておきましょうか。
このA子さんは最近なんだかやたらと貧血を起こすんですよね。
それで検査のために入院することになった。
A子さんのお母さんが一緒についてきた。
部屋に入ってベットに乗った。
あれこれ話をしているうちにお母さんが

「私そろそろ帰るからね」
と言うと、
「やだお母さん。帰らないでよ」
「やだって言ったって、いつまでも居るわけにはいかないんだから」
「やだー。一人で居るの怖いー。お願いだからもうちょっとだけ居てよ」
「本当にもうあんた、子供じゃないんだから」

そんな話をしているとカーテンの衝立の向こうからクスクスと笑う声がする。
そちらを見ていると女の子がひょこんと顔を見せた。
五歳くらいの可愛い女の子なんですが、あまり顔色が良くない。
長いこと入院しているような、そんな感じなんです。

「あら、良かったじゃない、お隣さんが居て。
 このお姉ちゃんのことよろしくお願いしますね」
とお母さんが言うと、女の子は「はい」と言った。
続けてお母さんが
「お姉ちゃん弱虫でしょ」
と言うと、女の子はニコッと笑った。

A子さん自身も
(あぁ、こんなに可愛い女の子が隣で嬉しいなぁ)
と思った。

お母さんが帰った後A子さんが女の子に「何かして遊ぼうか」と話しかけた。
すると女の子は手にたくさんの折り紙を持ってきた。
A子さんもわりと折り紙が出来る方ですから、
「じゃあ一緒に折ろう」
という話になり、二人で折り紙を折っていた。

それで色々と話をしていると、女の子は病院にもう随分長いこと入院していて、
「あと6回寝たら手術をするの」と言った。

「手術が終わったらきっと良くなるからね。
 怖いことなんて無いからね。
 頑張ろうね」
とA子さんが言うと、女の子は「うん」と頷いた。

「手術が終わったらまたお姉さん遊んであげるからね」
そんな話をしていると消灯の時間になったんで二人はベットに戻った。

いよいよ手術の三日前くらい。
その頃から周りにどんどんと人が増えてきた。
というのはきっと、その女の子の親類か何かなんでしょうね。
沢山の人がお見舞いに来るわけだ。

その時にA子さんはおかしいなぁと思った。

(簡単な手術だったらこんなに人は集まってこないよな)

いよいよ明日が女の子の手術という日。
親も親類も集まって、皆で女の子のベットを囲んでいる。
彼女も挨拶をしたわけなんですが、これはやっぱりおかしいと思った。
どうもそれは大変な手術らしいんですよね。

(もしかすると・・・)
A子さんはそう思ったんだけども、そんなことは考えてはいけないなとも思った。

それで女の子に
「手術なんて寝ていたらあっという間だからね、きっと大丈夫だからね。
 お姉ちゃんもお祈りしているからね」
と言うと、女の子は「ありがとう」と笑った。

「お姉ちゃん、手術が終わったらまた一緒に折り紙してくれる?」
「うん、一緒に遊ぼうね」
「じゃあ約束だよ」
「うん、約束」

その次の日、女の子は手術に行ったわけです。
A子さんはぽつんと一人病室に居て、やることもない。

(上手くいっているのかなぁ。
 大丈夫かなぁ)

昼も過ぎた頃、まだ女の子は帰ってこないので
どうしているかなぁと心配になった。

時間ばかりが経っていく。
一人の病室はシーンと静まり返っている。
A子さんはそのうちに待ってくるのが疲れてきちゃった。
そしてうつらうつらとしちゃったんです。

・・・

A子さんはフッと目が開いた。
まだ手術をしているのかなぁと思いながら隣のベットを見ると、女の子がぽつんと座っている。
こちらに足を向けて、足をパタンパタンとバタつかせながら一人で折り紙をしている。

「あれ、もう手術は終わったの?」

女の子は頷いた。
そして黙って折り紙の紙を一枚、こちらにスッと渡してきた。

「そっかぁ、手術頑張ったんだね、えらかったね。
 じゃあお姉ちゃん、何か折ってあげるからね」

と言いながらも
(なんだかおかしいなぁ。
 そんなに大きな手術の後にすぐに戻ってこれるだろうか。
 おまけにあんなに来ていた親や親類たちが誰もいない)
と思っていた。

見ると女の子は普通のパジャマを来てポツンと座っている。
そしてこちらに背中を向けている。

(手術の後にこんなこと出来るのかな?)

変だなと思いながらも折り紙を折ろうとしたら、何だか手に色が付く。
それは赤色の折り紙なんですが、手がなんだか赤色に染まってくるんだ。

(あら、この折り紙なんで色が取れるんだろう?)

折っているうちにどんどんと手が赤く染まっていく。

(何これ!)

気味が悪いなと思って女の子を見ると、女の子は相変わらず背中を向けて折り紙を折っている。

(変だな・・・)

何だかA子さんは怖くなってきた。

こんな時間にこんなところに一人で座っているわけないよなと思ってきたので
「・・・誰?」
と声を掛けたが、返事は無い。

その子だったら返事をしないはずがない。

怖いもんだから「あんた誰!」と叫んだ。

そうすると、女の子がニタッと笑ったのが分かった。
その瞬間、A子さんにすごい恐怖が襲ってきた。

嫌なことなんだけども、きっとあの子に何かあったに違いない。
それで怖いんだけどもどうにか声を振り絞り

「帰りなさい。
 ここに居ちゃ駄目」

そうすると、その子はゆっくりとベットから降りた。
そしてこちらへ回りこんでくる。
クルッとこちらを向いた。

その女の子の目は黄色く濁っている。
そしてげっそりと痩せている。
そしてこっちをジーっと見ながら寄ってきて

「お姉ちゃんの嘘つき」

その瞬間、A子さんの意識はスーッと遠のいた。
気が遠くなっていく中でその子が去っていく足音が聴こえた。

その子は手術の最中に亡くなったんだそうですよ。
でも部屋に戻ってきたんですね。
折り紙を折りに・・・。

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