飯場の霊

これは、私の番組を訪ねてきてくれた青年がしてくれた話です。
彼の家っていうのは土建屋さんなんです。
それで、なぜか昔から飯場があるんですが、そこでの話なんです。

そこにはみんなが絶対使いたがらない部屋があるそうなんです。
で、そういう部屋があるんだなっていうのは彼も知ってた。
自分のお父さんもそれを言ってたいうんです。

それで建物が古くなったんで、立て直そうって話になったんです。
ですからその部屋も壊されてしまう事になる。
その頃には彼もいっちょまえの年齢になっていましたから、
チャンスがあったら自分でその部屋を調べてみたいって思っていた。

それでこのチャンスを逃してしまうと、永遠にこの謎はわからない。
ただわかる事は、この飯場は大の大人達がみんな嫌がっているって事なんですよ。

何かがある。聞いても教えてはくれない。
でもきっと相当怖い事があるんだろうなっては思ってた。

彼は割と根性のある人ですから、それは行ってみようと思った。
誰も行きたがらないなら自分ひとりで行ってみようと思った。
もう二三日もすれば、その部屋は取り壊されてしまう。
それである夜に一人こっそりと行ってみたっていうんですよ。

長い事その部屋は使われていませんから、なんだか様子が違う。
なんだか気味が悪い。
でも待っていれば何かがあるんだろうと思って、まずは横になってみた。
なんだかジトッとしている。

(なんだか気味が悪いなあ)

普段ならそこにたくさんの人がいるけど今は一人ですからね。
その部屋も、もちろん他の部屋も誰もいないから、シーンとしている。
何時かわからないけど、もう良い時間になっているんでしょうね。

ふっと煙草に火をつけた。
フーっと煙草を蒸かした瞬間、ずるっと音がした。

ん?と見ると、押入があいていくんだ。

ズズズ・・・ズズズズ・・・

と押入が開いていく音に、おいおいおいと思った。
部屋には自分しかいないですからね。

押入の中から人が出てくるわけはない。
でも押入が勝手に開いていくっていうんです。

ズズズ・・・ズズズズ・・・

何かがあるに違いない。
何かがいるに違いないんだけど、どうしていいかはわからない。

でもせっかく来たんだから、根性をいれて頑張らなくちゃと思った。
で、そちらを見たら、何かが見えたっていうんです。

そのうちに押入から、ずるっと何かが出てきた・・・
さすがにうわぁと思った。

それが少しずつ自分のほうへ寄ってくる。
頭が出てきた。

煙草をつけたまま怯えていると、

「ちくしょう・・・ちくしょう・・・」
と、それが言ったっていうんですよ。

それで自分の足のほうへ手を伸ばしてきたんで、逃げようと思った。
その時にふっとそいつのほうを見ると、顔が膨れ上がっていうんです。
そしてその顔が血まみれになりながら自分を見て、「ちくしょう…ちくしょう…」って言っているんです。

うわあと思った瞬間に、そいつが自分の足の裾を掴んだんで、
ギャーッと叫んで四つん這いになりながら逃げ出したっていうんです。

なんだかわからなかった。
そして改めてお父さんのところへ行った。

「親父…俺あの部屋に行ったんだ」

「え? あの部屋へは行ったらだめだ」

「いや、もう壊しちゃうからさ。
 いったい何があるのか見たかったから。
 親父、あれは一体なんなんだ?」

「お前は知らないと思うけどな、昔あの飯場で若いのが喧嘩をして、一人殺されているんだ。
 時代が時代だったせいもあるんだけどな。あの中で苦しんで死んだんだ。
 それがどうも、いまだに出てくるらしいんだよな。」

「いや親父、出るらしいじゃないんだ。
 俺そいつにあったんだよ・・・」って彼は言ったそうですよ。

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