ピンクの女
私ね、以前に東京の杉並に店を持っていた事があるんですよ。店っていうのはバーなんですが。 これは、お店の経営をしたいっていうよりも、友達のお店を設計した事もあって、自分も洒落た店を作りたいなあと思いましてね。 店の色合いは緑と赤の組み合わせでもって洒落た感じでね。調子にのって作っちゃったんだ。 でね、私この店には、ほとんど行かないんですよ。行っても年3回くらい。 たまに顔を出す時には、いつもアイスクリームを買って行ってお客さんに配るっていう、悪い癖があったりしましたがね。 で、たまたまある時に私の友人が東京に出てきたんで、 その友人と私とマネージャーの三人でお店に行ったんだ。 カウンターに座って飲んでたんですよね。 そこへお客さんが入ってきて、私達の後ろ抜けて、奥のテーブル席に行ったんですよ。 それでしばらくすると、私の連れが言うわけですよ。 「稲川さん、奥の客変じゃない?」って。 すると、うちのマネージャーも、「ね、おかしいですよね」って言う。 っていうのも、二人は私のほうを向いて話しているから奥が見えるんだ。 でも私は、ちょうど逆を向いているから見えない。 でね、私がそちらを見てみると、 「ほら、三人いるでしょ?」って言うんだ。 見ると、奥の客は一人が女性で二人が男性なんですが、一番右側にいる男性が、 テレビでよくあるように、影がダブって見えるんだ。 影って光があたると、頭のほうが大きくなったりするのが普通ですよね? でも、その人の影は違う。全身が同じような輪郭なんだ。 本当に画面がずれたようにうつってるんだ。 ありえないんですよ。第一、うちにはそんな照明はないんですから。 でね、みんなで「変だね」って、しばらく見ていたんですよ。 わたしの座っているカウンターの端が、コンクリートの壁でついたてになってるんだけど、 その向こうに隠れるようにして、トイレの入り口がある。 それでね、そのついたての壁の所に、女の人の顔が写ったんだ。 横顔なんですが、薄いピンク色で、ソバージュのようなパーマをかけたような髪型で。 それで、位置からすると立っているんでしょうね。 それでその女はテーブルに座っている三人をじっと見てるんですよ。 はてな?と思った。 用があるなら、トイレに行けばいいんですよ。 それか、座るなら早く座ればいい。 トイレ行くわけでもなく、座るでもなく、そっからずっと顔を出して立ってるんですよ。 ところが、座っている三人は、まったくその女性を無視してるんですよ。 三人だけでしゃべってるの。 おかしいなあと、ひょいっと見たら、私の連れも、 「いますよね?おかしいですよね?客は確か三人で入ってきたと思ったけど…」 って言ってるんだ。 「あれ見える?」 「はい。見えます。」 「あんな客いたかね?」 「いや、お客は三人だと思ったけど、四人だったんですかね…」 みんなに見えてるんですよ。 それで、私が店のマスターに、「ねえ奥のお客さんは何人?」って聞くと、 マスターは当たり前のような顔して、「三人ですよ」って言うんです。 「いや、四人いるよ?」 「いやいや、そんな事ありませんよ。」 「三人がテーブルに座ってるけど、一人女が壁の所に立ってるんだよ」 「え?」 「ほら、薄いピンク色のような顔して、頭がソバージュっぽいパーマでさ…」 そう言うと、マスターの顔色が変わってね…。 「あの、稲川さん、こういう話があるんですよ…」と言った。 うちの扉っていうのは、赤い扉が二枚あって、両方から開くような形になってる。 大きな扉で、観音開きのような感じですね。 下には鳥のイラストが入って、ガラスがはまってます。 それで、ある日その扉からいつも常連さんでやって来るお客さんが入ってきた。 でね、その人がカウンターに座って挨拶をした瞬間に、後ろのドアが勝手に開いて閉まったわけだ。 そうすると、その常連さんが黙っちゃった。 「何どうしちゃったの?」 「うん…なんでもないんだけど…」 そうして少し飲んでいたんですがね、しばらくすると、 「あ、俺そろそろ帰らなくちゃ…」 「何?今来たばっかりじゃない」 「うん…ちょっと用事があってさ…」 「用事?用事がある人が、なんでちょっとだけ顔出すんだよ。変じゃない?どうしたの?」 そうすると、その常連さんが何とも言えない顔をしたっていうんですよ。 おかしいなあとマスターが思ってると、店の入り口のドアが、また勝手に開いて閉まったっていうんです。 するとその常連さんがしばらくして、「ああ、行った…」と呟くように言った。 「あんた何か見えたの?」 「うん…悪かったね…いや俺が入ったすぐ後なんだけど、後ろでドアが開いて閉まっただろ?」 「うん。そういえばあれ何だったんだろうね?」 「違うんだよ。女が入ってきたんだよ。」 「え?」 「だから女が入ってきたんだよ。それで俺の隣に座ったんだ。だから気味悪くて帰ろうと思ってさ…でも今出ていったからさ…」 「どんな女が見えたの?」 「ん?ピンクの顔をした女でさ、頭はソバージュみたいなパーマでさ…。」 そんな話をマスターが私にして、「その常連さんも稲川さんと同じような事を言ったんですよ?」って言った。 それで続けるように、一つ不思議な事があるって言ったんです。 そしてボトルを私の前に並べたんですよ。 「稲川さん、全部ボトルの口は閉まってるでしょ?」 「うん」 「でも、ボトルの中身が減ってるんですよ。そういう事が最近頻繁にあるんです。」 「誰かのいたずらじゃない?」 「いやいや…それにね、生ビールの樽なんですが、これも使わないうちから減ってる事があるんですよ。 ちゃんと調べてあるから、間違いないんですけどね…何か嫌なんですよね。 それでね、奥のお客さんいるでしょ?あの人達って、確か前は四人で来てたんですよ。」 「うん…」 「女性二人に、男性二人で来てたはずなんです。それで、その最近来なくなった女の人って、 薄いピンク色の化粧でもって、頭はソバージュの髪型なんです。その女性に何かあったのかな…。 なんだか気持ち悪いんですよ…」 それで、その後も不思議な事が続きましたよ。 でね…私、とうとう店を辞めちゃいましたよ。





