愛人のマンション

あのね因縁の話しっていいますと…芸能事務所に大川興業ってあるじゃないですか？

その大川興業に一人の若手がいたんです。
※この若手芸人とは、ピグモン勝田さんの事です。

で、この彼が生意気にもマンションに住み始めたいっていいはじめましてね。

こういう言い方はよくないかもしれないけど、有名な高島平。
※高島平は投身自殺が多かった事から自殺の名所として有名だったという意味。

その高島平の近くに安いマンションを見つけたんです。

でも家賃は自分で払えるんだけど、やっぱり保証が必要だと。
自分じゃ信用がないから、大川興業に保証人になってもらえるようお願いをしてさ。
で、大川興業がOKしたわけですよ。
それで、マンションに住める事になった。安く入れた。
ここね、安い割には良いマンションなんですよ。古いけど造りもいいし。

それで私がね、
「お前いい身分だな。こんな駆け出しのヤツが生意気だよ。普通弟子なんてもんは、
小さな部屋でコツコツやっていくもんなのにさ。こんな立派なマンションに住んで」
って言ったんですよね。

そしたら本人も「いやあ嬉しいですよ…」って、ご機嫌に話しをしてましたよ。
そりゃそうですよね、若手だけどそんないいマンションに住んでるんですから。

ところがね、しばらく経った時に、こいつがおかしな事を言いに来たんですよ。

「いやね、なんだか変なんですよね…夢だとも思えないし…」
「なんだよ？何があったんだよ？」

仕事が終わって家に帰って寝た。
夜中にふっと目が開くと、いくつか部屋があるんですが、隣の部屋に電気が点いてる。
そこに男が3人居て、ｼﾞｬﾗｼﾞｬﾗｼﾞｬﾗｼﾞｬﾗ音をさせながら、麻雀をしてる。

寝ぼけながらに（なんだ？何なんだ？）と思っていると、
その男が、彼に向かっておいでおいでをするんです。

それでぼやっと行ってみると、そこには高倉健さんがいて、亡くられた渥美清さんがいて、
あと一人有名だけど誰かわからない芸人が居てね。
そこで一緒に麻雀をやったっていうんですよ。

で、そのうち目を覚ますと、一人で畳で倒れてた。
でも、その時に実感があったって言うんですよ。
夢ではなくて、実感として起きていって麻雀をしたっていう実感があるんだ。
それが夢だとは絶対に思えないと…

それを聞いてね、私は「そんなの夢か夢遊病に決まってるじゃないか？」って言ったんです。
それで周りに居たみんなも「そうだよ夢遊病に決まってる」って同調した。

「お前が夜中に這いずっていって、畳の部屋で寝てただけだよ。だから気にするな。」
「そうですかね…」

ところがね、またしばらくしましたら、彼が私のとこへ来ましたよ。
「やっぱりどう考えても夢じゃないです。ちゃんと目が開いてるんです。実感があるんです。
で、見ると確実に自分の部屋なんです。それでやっぱり明かりがついてて男が麻雀してる。
その部屋に行くと、隣に高倉健さんが居て、向かいに渥美清さんが居て、
その隣にもう一人誰かわからない有名な芸人さんがいる。それでみんなで麻雀をして、
気が付くと畳で寝てるんです。」そんな話しをするんだ。

けど、そんな事ありえないからみんなで笑ってましたよ。

その彼がね、またしばらくして、中古車を買ったんですよ。
大川興業に保証人になってもらって。

だからまた、
「おまえ生意気だよ。マンション住んで、車なんて買ってさ。」
って言って笑ってたんだ。

そうしてましたらね、彼が車をぶつけちゃったんですよ。人身ではないんですが。
ガードレールに車をぶつけちゃったんだ。

でも、交通事故ですから一応警察に行くわけですよ。
それで書類を作るわけだ。

書類を書いてましたら、警察の人が、
「あーなんだあんた芸人さんかあ。へえ…このあたりって芸人さん多いんだね…
あ。そういえば、これあんたの家の近くだよ。
ほら覚えてるだろ？芸人の◯◯◯◯さんがが愛人に刺殺されたさ。
あの刺殺した愛人のマンション、確かこの近くだよ。」
※稲川さんの話しでは名前は伏せられていましたが、この芸人さんは佐々木つとむさんの事です。

途端に彼は「すみません電話を貸して下さい。」と立ち上がって、私に電話してきてね。
「座長わかりましたよ！あれ、佐々木つとむだんですよ！ほらいつも麻雀の時に出てくるの！」

有名だけどわからない芸人さんは、佐々木つとむさんだったんです。

それで調べてみたら、その彼の住んでいるその部屋こそが、
佐々木つとむさんが愛人に刺殺されたその部屋だったんです。
すごいですよね…夢じゃなかったんだよね…

そして、またしばらくして、大川興業の芸人が公演中に木に登ったの。
たかだかの高さのケヤキの木。
そしたらその木の枝が根本から折れて、頭を打って亡くなっちゃったんです。

このニュースは覚えている人もいると思うんですが…
この話しは、その亡くなった彼の話しですよ…

※本話しに出てくる「佐々木つとむさん」ですが、稲川さんのお話大きな顔でも登場します。

前の話へ

次の話へ