オーベルジュ
近畿地方の内陸部に位置する街と思って下さい。 開業時代、大変人気のあったオーベルジュがあったんです。 宿泊施設があって、レストランがあって、結婚式なんかも行えるという施設でね。 でも大変賑わっていたんですが、何かの事情で営業を停止してしまった。 それで建物だけが残って、これが若者達にとって格好の心霊スポットになってしまったんですね。 これは何年か前の夏のはじめなんですが、このオーベルジュに続く峠の道を高校生が4人、スクーターを飛ばしてやってきた。 仮にこの4人を、A君、B君、C君、D君としておきましょうかね。 市街地から離れた山裾ですから、民家もなければ、灯りもない。 到着すると、4人はそれぞれ懐中電灯を持って、建物の中に入っていった。 一階はレストランで、奥は厨房なんですが、特に見るものもない。 で、緩やかにカーブした階段を登って行くと、そこはガラーンとした宴会場なんですよね。 破れたカーテンが下がる窓からは、うっすらと星明かりが差し込んでいる。 かつてここでは、華やかな結婚式が行われ、着飾った紳士淑女が笑いあい拍手をした。 そんな場所だったんですが、今はその面影はない。闇の中にひっそりとしているんですね。 4人は、あちこち見て歩くんだけれども、何もない。 それで今度はロビーに出てみた。 4人の持つ懐中電灯が、あちこちを照らす度、その光が交差したりするんですが、その中に控室という文字が見えた。 で、A君が先頭に立って中に入っていったわけだ。 懐中電灯が室内を照らす。 すると、中央にある埃をかぶったテーブルの上に、カードが落ちてあるのを見つけたんです。 拾い上げてみると、それはどうやら結婚式の招待状のようなんですがね。 本来ならば、そのカードは封筒に入っているんでしょうが、なぜか剥き出しになっている。 よくよく見ると、そのカードには女性の名前だけが手書きで書き込まれているんですね。 それを見たA君はニターと笑ってね、その女性の名前が書き込まれた隣のスペースに、自分の名前をサインペンで書き込んで、 「なあ、みんな。俺の結婚披露パーティに出席してくれよな?」と言いながら、それをみんなに手渡した。 B君「おい、この花嫁っていったい何者なんだよ?洒落になんねーぞ…」 C君「ははっ…それで、この結婚披露パーティっていつなんだよ?」 A君「あーしーたー」 それで、そんな冗談を言いながら、4人はまた、あちこちを見てまわった。 でも結局面白そうな物も見つからなかったんで、建物を出てきたわけだ。 「おい、何もなかったなー」 「うん。そうだなー。本当何もなかったなー」 そう言いながら、4人はスクーターにまたがった。 それで帰り道、一列に並んで、4人は坂道を下っていった。 とね…一番後ろを走っていたA君が突然… 『おい、俺じゃねーよ…しらねえよ。ついてくんなよ…』 と意味のない事を叫んだかと思うと、急にスクーターの速度を加速させた。 そして、3人を追い越して走っていった。 3人が何事かと見ていると、A君のスクーターはどんどんスピードをあげていった。 A君と3人の距離はどんどんと開いていく。 何か訳のわからない事を叫びながら、どんどんどんどんスクーターは速度をあげていく。 この先…この先には、急なカーブがあるんですよね。 3人が、(あ…)と思った瞬間には、A君のスクーターは急なカーブを曲がり切れず、ガードレールに激突していた。 3人が追いついた時には、もうすでにA君はこと切れていたんですがね… それで3人は直ちに救急に通報した。 と、しばらくすると、眼下の市街地から、サイレンを鳴らして上ってくる救急車の赤いランプが見えた。 救急隊が到着して、A君の死亡を確認したんですね。 どうやらA君、カーブを曲がりきれずガードレールに激突した時に、首の骨を折ったようなんです。 ただ3人は、A君が激突する前に、猛スピードで走っていくA君のスクーターの後ろに、 白いウェディングドレスを着た女が乗っているのを見たっていうんですね。 で、A君の亡くなった時間なんですが…時計は夜中の12時をまわっていて、 A君が言っていた『あした』になっていたわけですよね。 それでA君が亡くなった瞬間に立ち会ったのは、その招待状を貰った3人だったわけですよね…




