夜毎舞い戻る花嫁の謎

こういう仕事をしていると、
「僕の後ろに背後霊はいますか?」とか「稲川さん僕最近体の調子が悪いんです」とか、そういう話しをされる事が多くあるんです。
その度に、「私は霊媒師じゃないよ」って言うんですけどね。

そんなある時なんですけど、番組に入ったら真面目なスタッフが私の所へ来て、
「稲川さん、僕はとっても怖い話を知っているんです。でも話す相手がいないから、聞いてもらえませんか?」って言うんです。
それで話しを聞いたんですが、私この話しはやけに頭に残ってるんです。

彼にはおじさんがいるんですが、彼とおじさんは歳が近いんです。おじさんであってもね。
それで当時ヒッピーっていうのが流行ってたんですけど、そのおじさんも日本中を旅してた。

それで北海道に行った時に、一時期流行った事があったでしょ?牧場に住み着いて干し草を刈ったりするような仕事。
それをする事になったんですね。

しばらく牧場で仕事をしていたら、地元の女性と親しくなって、その女性と恋愛をするようになった。
でも、おじさんは学生だし、ちゃんとした職業ももっていないし、まだまだロマンもありますからね…
「将来一緒になれたら、一緒になろうね」って彼女に告げて、北海道から出たんだ。

地元にも帰らず、次は九州のほうに行ったりなんかしてね。
でもそんな風に各地を周っていると、北海道での恋愛なんて遠くの事のように感じられてきて、どんどん忘れていくわけだ。

それからしばらく時が経って、おじさんも就職したちゃったんです。
その時に友達に「どっか旅行でも行かない?」って誘われて、北海道の彼女の事を思い出した。

「ああ、じゃあ北海道に行かない?俺、北海道に思い出があるんだ。いい子が居てね…」
っていうんで、友達と北海道に出かけていった。

北海道の牧場って人里離れてますからね?直線で十何キロいかないと何もないって場所なんです。
でも、そこへ行ってみた。

「いやあ、自分の思い出の場所ってのはここだよ」って話しを友達に話しをしながら、そこを訪ねていたった。
でもその牧場に行ってみても、誰もいないんです…

こんな時間に誰もいないなんておかしいな?と思ってね…たまたま近くを通ったおじさんに、
「昔ここでバイトをしてた者なんだけど、あそこに居た娘さんを訪ねてきたんです…」
と事情を話して、聞いてみたんだ。

「あぁ! おじさんもその子知ってるよ。
 あぁーなんか奇遇だねぇ。
 それであそこに居た娘さんなんだけど・・・
 あの子が亡くなって今お墓に埋めるって言うんで、皆出かけてるよ」

「え…?彼女亡くなったんですか?こんなタイミングでここに来るなんて…世の中ってこんなことあるんですね…」

「うん…亡くなったんだ。あんた呼ばれたんじゃないか?」

「いや…やめてくださいよ」

それで彼もおじさんもそんな話をしていたんですが、やっぱりショックだったんですね。
彼にとったらやっぱり可愛い子だったし、心に残っている人でしたからね。
彼もちゃんと就職したわけだし、心に変化があったから北海道まで来たわけですしね。

そうしているうちに、そこの牧場の人たちが戻ってきて彼を見て言った。
「あぁ、もしかしたら彼女があなたのことを呼んだのかもしれないね…あんた街まで帰るのも大変だし、泊まっていきなさいよ」

それで、おじさんは、そこに友達と一緒に泊まることになったんです。
牧場の人たちと思い出話をして、お酒を飲んで、泊めてもらう部屋に戻っていった。
本当ならば友達と同じ部屋でよかったんだけども、部屋の都合で友達と別の部屋になったんです。

夜中になるとなんだか不思議な気持ちというか、複雑な気持ちになって目が覚めた。
それで天井を見て色々考えていたんだ。
ひょいっと横を見ると、気配がある。
誰かが居るようなんだ。

あれっと思って目を凝らしてみるとそれは昔付き合っていた、亡くなったという彼女なんです。
手を伸ばして彼女に触れてみた。
すると、確かに実感がある。

(嘘だ・・・彼女は死んだんじゃないか・・・)

びっくりして「皆起きてくれ!」と騒いで皆を起こした。
皆がなんだなんだと言いつつ集まると、死んだ彼女の遺体が横たわっているから大騒ぎになった。

そりゃ皆驚きますよね、死んで埋めてきた彼女なんですから。
どうしたんだと大騒ぎになった。
もう寝るどころじゃない。

おじさんもそのまま起きて朝を迎えた。
それで早速皆で墓に行ってまた彼女を埋めた。
でもどうしたことかわからないし、やっぱり気がかりだからもう一晩泊まろうという話になり、そこに泊めてもらうことになった。

夜になって一人で寝ていると、昨日と全く同じことが起こった。
夜中になるとやっぱり目が覚めて、ひょいと横を見るとまた彼女がいる。
触れてみるときちんと生身の体なんだ。
もちろん生きてはいない。
でも幽霊なんかじゃなく、人間の体なんです。

「うわぁ、起きてくれ!」と再び皆を起こした。

よく見てみると、彼女の体には泥が付いている。
「誰だ、こんなイタズラをするのは!」と大騒ぎになった。

これは普通の状態じゃない。
でもイタズラなんかする奴はいないだろう。
わざわざ墓を掘り起こすようなバカはいないですからね。

その日もまた皆は寝ないで朝を迎えた。
そして疲れきった。

そうすると一緒に来た友達が
「お前、これどう考えたって異常な状態だよ。
 こんなこと、ありえるわけがない。
 これはちゃんと確認しよう。
 もしもイタズラをするような奴がいれば、俺が写真を撮ってやるよ」

その友達というのはたまたまカメラを趣味にしている人でした。
友達は町まで行き、カメラの備品を買ってきて、襖を開けたりすると自動的にカメラのシャッターが切れるようにした。
それを部屋に仕込んだ。

「お前今日気持ち悪いかもしれないけど、しょうがないから今日も一人で寝ろよ」

おじさんはなかなか寝れなかったそうですが、前の日もその前の日も寝てなかったわけですから、
そうこうしているうちにうつらうつらと寝てしまった。

でも夜に同じような時刻になると目が覚めた。
天井を眺め、まさかと思いながら隣を見ると、彼女の死体があった。

「うわぁ、起きてくれ!」と皆を起こし、また大騒ぎになった。
でもその日はカメラを仕込んでいた。
さっそくカメラを持っていって、町で現像してもらった。
おじさんは友達が町にカメラを現像しに行っている間、親族や牧場の関係者と一緒に居た。

そうこうしているうちに友達が町から戻ってきた。
見てみると、何の変哲もない襖が映っているわけです。
それで写真をめくっていく。
友達が一枚の写真をめくった時に、「うわぁ!」と声を上げた。

友達からひったくって写真を見ると、そこには襖が少し開いていて、彼女の白い足がスッと見えて、抱えている男の足が見え、男の顔が覗いている。
その顔というのは



おじさん自身だったんです。



おじさん自身が彼女の遺体を持ってきていたんです。
だけどおじさんは彼女を埋めた墓の場所なんて知らなかったんですよ。

「稲川さん、これ実話なんですよ」

と、話してくれた彼は、目に涙を浮かべながら話してくれました。
・・・そういうことってあるんですよね。

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