内田のおばあちゃん
私が小さな頃、と言っても小学生位の頃だったかな。
おばあちゃんが浮かない顔をしてるんですよ。何かな?と思った。
それで(ああそうか。内田のおばあちゃんが亡くなったからショックなんだな…)と子供ながらに思ったんですよね。
というのも、うちのおばあちゃんと仲の良い「内田のおばあちゃん」が、亡くなったんですよね。
うちからしばらく行くとお屋敷町なんですが、そこに暮らしていてね。それは品のいいおばあちゃんで…
うちへも遊びに来るし、うちのおばあちゃんも遊びに行くしで、非常に仲がよかった。
ところが、この内田のおばあちゃんが亡くなっちゃった。だから寂しいわけなんですよね。
(ああ、おばあちゃん元気がないな)と思ったんですがね、そうやって日が過ぎていった。
そんなある日なんですが、家に人が来て、みんなでお茶を飲みながら話しをしてた。
その時におばあちゃんが、ふいにね、「ああ、もう我慢出来ないから話しちまおうかね」って言ったんですよ。
みんな何の話しなんだろう?と思った。
それで、「おばあちゃん一体何の話し?」って聞いた。
するとおばあちゃんが、
「実はね、夜になると内田のおばあちゃんが家を訪ねてくるんだよ」って言った。
家はね、門があって長い道のような庭なんですよ。それで突き当りが玄関。
その門が、夜になると開くっていうんですよ。音がして。
それで、草履の足音がする。
そして、歩く音が玄関まで来て、「ごめんください」って言うんだそうですよ。
それで、おばあちゃんは起きて行ってカチっと玄関の灯りをつける。
灯りをつけると、昔の玄関ですから、曇りガラスで格子戸になってるんだな。
そして、そこに立っている姿が見えるって言うんですよ。
それは内田さんのおばあちゃんだって。
「入れてあげたいけど、入れたら私は連れて行かれちゃうから、開ける事はできないんだ。」って。
「会いたい気持ちはあるんだけど…でも開けれないんだ」って。
いつも、内田のおばあちゃんは、夜に訪ねてくるんだそうですよ。
そして玄関越しに話しをすると、帰っていくんだそうですよ。
それで毎日来るからどうしようと…
「開けてしまったら連れていかれちゃうし、人に話してしまったらもう来なくなるし。
どうしようかと思っていたけど、もうこれ以上は我慢できないから…だから、みんなに話してしまうんだ。」
そう言ってましたよね。
それから何日かして、私、おばあちゃんに聞いたんですよね。
「おばあちゃん、内田のおばあちゃんまだ来るの?」って。
そうすると、おばあちゃんは、
「いやあ、もう来なくなったね」って、言っていました。
いやあ…そんな事が昔ありましたよね。