見えなかったか? - 風来坊 伊山亮吉
今から五年くらい前の話になるんですけど、地元の友達が車を買ったと言うのでドライブに行こうよと誘ってくれたんです。
おーいいねということでその時四人くらいのメンバーが集ったんです。
何処に行く?という話になった時に類は友を呼ぶと言いますか、このメンバーが全員怪談好きだったのでせっかくだから心霊スポット行かない?という話になったんです。
何処に行こうかという話になった時に今は時代が時代ですから県と心霊スポットで調べると色々出てくるんですよね。
そして良いところがあったんですけどそれは神奈川県の山奥にある廃トンネルなんです。
ここは距離的にもちょうどよくて四人で向かうことになったんです。
四人で山道を向かっていくわけなんですけど、その先にあるのは廃トンネルだけなので街灯も無いんです。
着ける必要がないんですよね、廃トンネルですから。
真っ暗な道をぶーっと登っていく。
社内は盛り上がっていて楽しいんです。
そのまま登っていくと途中で門みたいなのがあってここからは車から降りなければいけないという場所だったんです。
車から降りてメンバーみんなでトボトボトボトボと山道を登っていった。
するとそのトンネルが見えてきたんです。
すごい雰囲気なんですよね。
みんなで懐中電灯を持ってさぁ行くかと歩いていった。
ただ何も起こらないんです。
起こらなくていいんですけど、みんなちょっとがっかりしますよね。
「何も起こらないじゃん」
「何もないね、引き返す?」
「今度はライトを消していくか」
そしてライトを消して戻ってきたんです。
でもやっぱり何も起こらないんです。
そしてそのまま車まで戻ってきてしまった。
「ねぇ何も起こらなかったな、どうする?」
「何も起こらなかったのはちょっと面白くないけど、でもこのままこうしててもしょうがないから帰る?」
そうするとみんなで意気消沈しながら下山していったんです。
もうその時には会話もないんですよね。
僕はその時助手席に座っていたんですけど、ぼーっと車窓を眺めていたんです。
暗い山中がたまにライトでピカッと光って見えるんです。
その時にふと、おやっと思うものがあったんです。
「ちょっと停めて」
「どうしたんだよ」
「いいから停めて」
運転手は車を停めてくれたんです。
「どうした?」
「今さ、山中にボロボロの小屋のようなものが見えたんだよ。
そっちに行ってみない?
トンネルなんにもなかったしさ」
そんな提案をしたら、みんながイイねと乗ってくれたんです。
そのボロボロの小屋にギリギリ近づけるところまで車で近づいていったんです。
そしたらちゃんと小屋はあったんです。
「ほら、ちゃんと小屋あったでしょ」
「ほんとだ、小屋あったな。行ってみようぜ」
行ってみようと思ったんですけど、一つ問題が起こったんです。
何かって言うと、そのボロボロの小屋が建ってある場所というのが道路よりも二メートルほど高い平地の上に建っているんです。
つまり二メートルの高さがあるので車ではギリギリ近くまでは近づけないんです。
それなので段差のところまで極力車を寄せてから降りたんです。
「そしたらここからは徒歩で登っていくしかねぇな」
「そうだな、じゃあ行くか」
その時にふと見ると運転手が車から降りていないんですよ。
「お前ビビってんのかよ」と声をかけると、
「いやビビってないけどさ、俺買ったばかりの新車だからさ、流石に車道にこのまま置いていくってのは無理だよ。
だから俺は車に残ってるからお前ら三人で見に行ってくれよ。
それでその後交代交代で見に行ければ助かるからさ」
運転手の言っていることもご尤もだなと思ったので、運転手を残して三人はその段差を登っていったんです。
すると登ったところから大体二十メートルほど先にボロボロの小屋があるんです。
ボロボロの小屋は本当にボロボロなんですけど、なぜか壊されていない。
色々と違和感があるんです。
周りは草木がボーボーなのに、その小屋の周りには土がむき出して草木が生えていないんです。
明らかにそこの小屋のところだけ違和感があるんです。
僕たちは懐中電灯を持ってその小屋の方に歩いていった。
足元が危ないので、懐中電灯を足元に向けながら歩いていったんです。
そしたらあれ?って思った。
何かって言うと、ちょうど小屋と自分たちの間にタイヤの跡があるんです。
タイヤの跡が僕らの前を横切っているんです。
「あれ、おかしくない?」
そうなんです、僕らは二メートルの段差があったから車を降りて徒歩でここまで登ってきたんです。
「ここにタイヤの跡があるってことは、ここ車で通れるの?」
タイヤの跡を見てみると鬱蒼と木々の間からフッとタイヤの跡が現れて、僕らの前を横切って続いていっているんです。
明らかに道があるとは思えないんです。
でも確かにタイヤの跡はあるんです。
「なぁちょっと思ったんだけどさ、小屋に行く前にさ、このタイヤの跡を追ってみないか?
それでもし車道に繋がっているんなら運転手も呼べるしさ。
車道に繋がっていなくても何処に繋がってるか分かんないからなんか怖くて楽しいじゃん」
と、そういう話になったんです。
みんなが乗ってくれたので急遽僕らは進路を変えてタイヤの跡を追い始めたんです。
その途端、プープープープーと車のクラクションが鳴ったんです。
振り返ってみると車に残っていた奴が戻ってこい戻ってこいと言いながらクラクションを鳴らしているんです。
そいつは尋常がないくらい焦っているんです。
「なんだよ、なんなんだよ」
「いいから早く戻ってこい!」
そう言いながらクラクションを鳴らすんです。
僕たちはよく分からなかったんですけど、運転手の尋常じゃない様子に走って戻って車に乗り込んだんです。
「何があったんだよ?」
「いいから、とりあえず俺は安全運転でおりたいからさ」
そのまま車は走り出してしまったんです。
何があったんだよと助手席から聞いても
「いいから、俺は今なるべく安全に降りたいから黙ってて」
そう言ってまるで聞いてくれないんです。
とにかく焦っていて汗も出てきている。
そのまま車は飛ばして山を抜けた。
コンビニがあったんでそいつはコンビニの駐車場に車を停めたんです。
運転手は気を落ち着けているんですけど、僕らは何があったのか知りたいですからね。
「お前落ち着いたら何があったか聞かせてくれよな」と言ったんです。
しばらくして運転手が落ち着いたので話を聞いてみると、そいつは第一声で「見えなかったか?」と聞くんです。
「え、何が?」
「いやだから見えなかったか?」
「いや分かんないけど何が?」
その運転手いわくなんですが、そいつは僕らが段差を登っていった後に外に降りてタバコを吸いながら僕らの後ろ姿を見ていたそうです。
その時に視線をひょいと右に向けたら大きな白い鳥居があったというんです。
それが見えなかったか?と言うんです。
僕たちには見えていなかったんです。
でも運転手の話で言えば、それは絶対に僕らの視界に映っていたと言うんです。
でも僕らにはそれが見えていなかった。
それがどうしたんだよ?と言うと、
「なんかでかい鳥居があるなと思ってずっとそれを見ていると、その鳥居の奥で何かが動いてるんだよ。
あの烏合ているのはなんだろうとタバコを吸いながらじーっと見ていると、段々と目が慣れてわかったんだ。
それさ、白装束の人たちがたくさんいて、うようよと動いてるんだよ。
うわ、なんだあれって思った時にそいつらが一斉に手を上げて手招きを始めたんだ。
その瞬間にお前たちが一斉に進路を変えてその鳥居の方に歩き始めたんだ。
これは危ないと思って俺は急いでクラクションを鳴らしたんだ。
俺が止めなかったらお前らあそこに行こうとしてたんだよ。
見えなかったのかよ?」
僕たちは見えなかったんですよね。
これって、僕らは運転手を残していたから戻ってこれたんですよ。
もし四人でそのまま段差を登ってそのままタイヤの跡を追っていたら僕らはその後どうなっていたのか全くわからないんです。
そんな体験をしました。