虫 - 響洋平(DJ)

この話は非常に好きな話なんですけどもクラブで知り合ったDさんという方が居るんです。
その人はイベントのオーガナイズを行っている人なんですけども、ある時Dさんが

「響さん、響さん。
 自分も昔節後な体験をしたことがあるんです」
と言って話してくれたんです。

五年ほど前、Dさんのお父さんが亡くなったそうです。
病気で亡くなったんで致し方ないんですがお父さんが亡くなる前、病院のベットの中で自分が亡くなったら虫になりたいと言っていたそうです。

お父さんは昔から昆虫が好きで標本を作ったり昆虫の図鑑を集めたり非常に虫が好きだったのでそんなことを言ったのかなとDさんは思っていたそうです。

そう言いながらDさんのお父さんは亡くなられて、お葬式になったそうです。
お葬式も終わり、火葬場でお骨になって納骨をするために墓地へみんなで移動したんです。
納骨も終えてお坊さんがお経を読んで家族が列になって手を合わせていく。
季節的には春先で、非常に天気のいい日だったそうです。

墓地というのは緑に囲まれた非常にロケーションのいい場所。
お経も終わってDさんがフッと顔を上げると何気なしに後ろを振り返るとそこにあった木の枝に尺取虫がひょこひょこと動いていたそうです。
Dさんはそれを見て可愛いなと思って何気なしにその尺取虫に手を振ったそうです。

そしたら不思議なことに、尺取虫が顔を上げてDさんの手の動きに合わせて顔をひょこひょこと動かしたそうです。
それを見てDさんは可愛らしいなと思って手を振り続けていたそうです。
そしたらそれを見ていたお婆ちゃん、お父さんのお母さんが

「あ、お父さんが見に来てくれているんだねー」
と言ったそうです。

そしてお婆ちゃんもその尺取虫に向かって手を振ったんです。
そしたらお婆ちゃんの手の動きに合わせて尺取虫もまたひょこひょこと顔を動かすんです。
Dさんはそれが面白かったので携帯で動画を撮りながらまた手を振った。
そうするとまた虫が顔をひょこひょこと動かす。
Dさんはきっとお父さんが来てくれたんだなと思った。
そういった話をDさんが私にしてくれたんです。

これは確かに偶然といえば偶然かもしれませんが、その虫を見ることでお父さんを思い出すことができたとすればとても良いことだと思って私はDさんに

「これはとても良い話ですね。
 もしかしたら偶然かもしれないですけど、家族のことを想うことができたと思うととても良い話ですね」
と言うとDさんが

「いや違うんですよ。
 あれは本当にお父さんだったんです」
と言うんです。

どういうことですか?と私が聞くと、Dさんは家に帰って自分が撮ったスマホの動画を見たそうです。
そしたらそこに映っていたのはただの木の枝で、そこには虫は映っていなかったそうです。
それを見た時に、あぁ本当にお父さんが来てくれたのかもしれないなと思って、怖いというよりは嬉しかったと、そんな話をしてくれました。

前の話へ

次の話へ