私は此処にいる - 住倉カオス

僕は普段カメラマンをやっているんですけども、それがどうしてこういう心霊の取材をやったり怪談をやっているのかというと、あることがきっかけなんです。

僕はちょっと前まで出版社に勤めていまして、そこの社内カメラマンだったんです。
社内カメラマンというのはそこの雑誌に載っているものを何でも撮らないといけなくて、ラーメンも撮るしおもちゃの玩具も撮るし、女性のグラビア、たまにはヤクザものなんかも撮らないといけなかったりしたんです。

あるときに、今から13年ほど前のことなんですけども、殺人事件の現場を撮影するという連載が始まったんです。
そしてその時にある場所行きまして。
それがきっかけてこういう取材を始めることになったんです。

1977年なので、今から40年前のことですね。
秩父の山奥にある山道があったんです。
車が二台ゆっくりとすれ違わないといけないような細い道で、昼間も山の中なのですごく鬱蒼としているんです。

そこに車も何時間かで一、二台通るようなセメントを運ぶような車しか通らない道があったんですけども、そこに貯水室があったんです。
どれくらいかな、60センチ×60センチくらいかな。
それぐらいの鉄の板があって、その下に貯水槽があったんです。

ある時に消防団員の方がね、貯水槽の点検をすることになっていたんです。
その点検で行ったんですけども、それが何かとても不思議な話でね、夜の9時45分くらいに点検に行ったんです。
普通はね、昼間に行かないと真っ暗なので検査は出来ないんですけども、その時は後で消防団員に聞くとなぜだか妙な胸騒ぎがして、今すぐ調べないといけないという気持ちになったんだそうです。

貯水槽の検査は三ヶ月に一回している。
その日は12/7だったんですけども、その4日前の12/3に既に検査はしていたんだそうですよ。
なのに急に胸騒ぎがしてどうしても行かないといけないと思ったんだそうです。

二人で夜に行って、60センチ四方の鉄の扉を懐中電灯で照らしながら開けたら、ものすごい異臭がしたんですって。
鼻をガンとやられるようなね。
なんだろうと思って照らしてみると、人がうつ伏せで浮いていて、長い髪の毛が水面に広がっている。

これは大変だということで、直ぐに警察に連絡して何十分後かに警察が来たんです。
棒なんかを使ってその頭を引き上げようと髪の毛を掴むと、もう完全に腐っている。
髪の毛がズルズルっと抜けて、胴体から引き上げようとするんですけども首のところが脆くなっていて結局頭がもげてしまったんだそうです。

だけどもすごく冷たい水の中にいたので白骨化せずに、屍蝋というんですね、人間の体が蝋のようになって、人形のようになっていたんです。
それでこれは大事件になって、当時の地方紙の一面を飾るんですけども、すごく不思議なんですよ。
地元の人達はやっぱりと思ったそうなんです。

なんでやっぱりと思ったかというと、1977年の2年前、1975年の12月あたりからそこに幽霊が出るって噂があったんだそうです。
例えばタクシーの運転手さんが主に見ていたらしいんですけども、ある運転手さんの話だとそこの曲がり角を夜真っ暗な中で曲がろうとするとライトが曲がり角を照らした時に女の人がうずくまっていたんだそうです。

こんな時間にこんなところで。
本当に誰も通らないようなところですからね。
民家も近くにないし、これは何事かが起こったのではないかと思って、車を止めて窓からその女の人に声をかけた。

「大丈夫ですか?」

そしたらその女の人がふわっと振り返ると、顔がグズグズに崩れていた。
そんな話が噂になっていたんです。
その噂というのはタクシーの運転手さんだけでなく、一般のドライバーにも広まっていったんです。

例えばあるトラックの運転手さんなんかはやっぱりその山道をトラックで走っていたんですよね。
そうするとライトに照らされて曲がり角にところに女の人が立っていたんですって。
それがどうして女の人か分かったかと言うと、髪の毛がすごく黒くて長かった。
服の方も真っ黒だったんです。

夜の闇夜と髪と服が溶け込んでいて、前を向いているのか後ろを向いているのかも分からない。
そしてすごく胸騒ぎを感じたそうなんです。
こんな時間にこんなところでって。

これは何かに巻き込まれてはいけないなと思ったそうなんですけども、トラックなんかはその道を通る時はすごく狭いのでその人の横を通る時にゆっくり通らざるを得なかったそうなんです。
ゆっくり通り過ぎて、もしかしたら引っ掛けてしまったかもしれないとすごく不安に思って、ちょっとした先で止まって、車を降りてその女の人が居たあたりまで見にに行ったんですけども、結局誰も居ない。
あるのは貯水槽の蓋だけ。

そんなことが噂になっていたので、地元の人達はその遺体が発見された時にあーやっぱりなとみんななったんです。
それが当時の新聞にも載っているんです。
全国紙の新聞にもです。
女性週刊誌なんかでもすごく話題になって、日本にもいくつか心霊で有名なものがあるんですけども、その中でも有名になるくらいのものだったんです。

結局その事件というのは、顔もグズグズに崩れていたので迷宮入りしてしまうんじゃないかと思われていたんですけども、虫歯の治療痕でその女の人が何者かが分かったんです。
その女の人というのは市内に住んでいるOLさんで、21歳だった。
実は遺体を解剖すると妊娠をしていたんです。

彼氏が結婚を迫られて、邪魔になって殺した。
これが事件の真相だったんですけども、当時は遺留品も全然無くて、だけど犯人はすぐに捕まった。
幽霊が自分の遺体を発見させて犯人を捕まえさせたという有名な話なんです。

それが27年過ぎて僕たちが事件を調査することになったんです。
その当時、仄暗い水の底からという映画がやっていて、その貯水槽の事件がそれをモチーフにしていたんじゃないかと言われていたんです。

その映画が流行っていたので貯水槽事件を調べてみようということで、編集者のTさん、カメラマンの僕、そして作家の小池壮彦さん、この方は色んな怪奇事件を調査している方なんですけども、この三人で現場に行くことになったんです。

当時の新聞というのは人権意識というのが全然違うんです。
被害者のお父さんの名前、被害者の名前、住所、お父さんの会社、個人情報が今と違い全部載っていたんです。
被害者の住所が載っていたので行ってみましょうかということになったんです。

カーナビに住所を入れて東京から行ってみたんですけども、段々近づいてきましたねーなんて話していて、小池さんが紙の地図を見ていたんです。
僕らはカーナビを見ていたんです。
目的地に近づいてきたのか、カーナビが「目的地に近づきました」と言うんです。
でもなんだか変だなーと思ったんです。
というのも、街がまだ隣町だったんです。
そして、「目的地に到着しました」と言うんです。

そしたら地図を見ていた小池さんが「おかしいですね、ここは違いますよ」と言うんです。
確かに紙の地図を見ると全然違う。

住所を入れたのに違う場所で「着きました」と言っているんですよ。
おかしいなと言ってもう一度打ち直してもう一度行ってみた。
そしたらまた違う場所で「着きました」と言うんですよ。
カーナビだと住所が変更になったときとかに混乱することはあるんですけども、当時の住所と今の住所って変わってないんですよ。

何だろうなと思ってそこで降りてみたんですけども、降りてみるとそこにはお墓が広がっているんです。
山の中腹に200くらいお墓がある、まぁまぁ大きいところなんですよ。
なんでお墓についたの?という話になったんですけども、まさかねと思いながらも僕たちは降りてお墓を見てみることにしたんです。
そしたら被害者のお墓がすぐに見つかって、お墓の横に名前を刻む墓標のようなものがあるんですけども、被害者のお名前と日付に間違いがないんです。

家に行こうとしたのに被害者のお墓に着いてしまったんです。
でもせっかくなのでということで、僕たちはその辺りを見てみることにしたんです。
でね、小池さんがコンパクトなデジカメを持っていたんです。

落とさないようにストラップに手を通して歩いていたんですけども、ぶらぶら歩いていたら小池さんが「あっ!」と大きな声を出したんです。
小池さんが歩いていたらストラップがガンと飛んで、デジカメが落ちてしまったんです。
それでコンクリートに当たって、大丈夫かなと見ているんですけども、スイッチを入れてもうんうん言うだけで全然動作しないんです。
それで変な空気になってしまったのでお線香とお花だけあげて帰ろうかとなったんです。

それから何日後かに、小池さんから連絡があったんです。
何だろうと思って電話を取ると、「ちょっと見てほしいものがある」と言うんです。
待ち合わせ場所に行くと小池さんがパソコンを持っていて、そして動画があると言うんです。
聞くと、撮った覚えのない動画が二つ入っていたと言うんです。

「それ間違って押したんじゃないの?」と聞くと、「絶対に押してない」と。
「そもそも動画機能があることを知らないから動画なんか撮ってないはずだ」と。

とにかく見せてもらうことにしたら、すごく短い動画が二本入っていたんです。
五秒くらいのものなんですけどね。

初めの動画はカメラをブラブラとしているような感じで、地面が写っているんです。
パッと振り上げた時に墓地が写っていたんであの墓地で撮ったものだというのは分かるんです。
僕は小池さんがカメラを持って歩いているときに太ももか何かに当たって動画ボタンが押されてしまったのかと思ったんです。
それは小池さんには言わなかったんですけども。

そして二個目の動画を見てみたんです。
そしたら二個目の動画も同じように揺れているんですけども、あと、お墓が写っているんですよ。

その動画を見た時になんだか変な感じがして鳥肌が立ったんです。
書き出してもう一度よく見てみると、被害者のお墓が写っているんです。
で、実際にそこから一瞬なんですけど、とっくり型のセーターを着た女性が写っているんです。

その時確かに僕らの記憶では、誰も居なかったはずなんです。

思い出してみると、トラックの運転手さんやタクシーの運転手さんがみんな見たのは黒のとっくりセーターなんです。
被害者というのは紺色のとっくりセーターを着ていたんですけども、発見された時は紺のとっくりセーターが水に濡れて黒に見えたんです。

まぁ一個一個の偶然というのは、例えばカーナビのことにしてもそれを雑誌の記事にしたんですけどもそれがテレビ局から取材させてほしいと二つほど来たんですよ。
そのテレビ局の人達も自分たちで実際に住所を入れてやってみたんですけども、同じことが起きたって言うんです。
タクシーで取材したスタッフも同じことが起きた。
ということで再現性があることだった。

もしかしたらカーナビの衛生情報が間違っていたのかもしれないですし、たまたま参考にした情報が被害者の住所とお墓の住所を入れ違えていたのかもしれない。
で、たまたま僕らがお墓に居た時に黒のとっくりセーターを着た女性が、気づかないだけで居たのかもしれない。
そういう偶然があったのかもしれないけども、それってあまりにも不自然なんですよね。
偶然が重なるというのは。

ちょっとあまりにも僕の中で納得のいかないことがあったので、それがすごく心に残ってそれで今のことを続けているのかもしれないですね。

前の話へ

次の話へ