滝不動 - 黒木あるじ
心霊スポットというものは全国に沢山ありますが、私の暮らしている山形にも滝不動という曰く付きの場所があります。 もともとは修験者が修業をする場所だったそうですが、いつの頃からかそこに遊び半分で行くと呪われる、または殺される等と言われたものです。 私も昼間に行ったことがありますが、非常に滝が清々しく、とても綺麗な空気の場所でここで何が呪われるのだろうと不思議に思ったものです。 ところが夜になると辺りの様子が一変するのだそうです。 どこから聞こえてくるのか分からない轟き。 その中に迫る誰かの足音。 一寸先も見えない闇の中で何が襲ってきてもおかしくない。 そんな禍々しさが辺りを包んでいると言った人がいます。 そんな滝不動に関するお話です。 地元テレビ局に務めるKさんという方のお話です。 その日彼は遅くまで編集室に残って映像の編集作業を行っていたそうです。 と、ガヤガヤと音がして撮影スタッフが撮影から戻ってきたそうです。 「おー、お疲れ様。 どこに行っていたの?」 そう声を掛けると若いスタッフの一人が「今日は滝不動ですよ」とわざと恐ろしげな声で言ったのだそうです。 「滝不動? あの心霊スポットの場所かい? なんでまた?」 「いや、県内の神様とか仏さまとか寺とか神社とかそういうのを撮影してくれって依頼で行ってきたんです」 若いディレクターはあまり怖がっていない様子だったのでKさんはわざと「あそこに行くと大変な目に遭うそうだよ」と煽ったのだそうです。 「またそうやって脅かして。 何かあったってKさんが今日はここに残るんですからね。 そんなこと言っても知りませんよ」 わざと若いディレクターは今日は徹夜だと決まっているKさんに脅かすような台詞を吐いて、机の上に収録済みのテープをぽんと置いて帰っていったそうです。 自分で驚かしたものの、そう言われるとあまり気分のいいものではありません。 さっさと編集を終えて夜が明ける前に仮眠室にでも行こう。 そう思いながら編集室に籠もっていたKさん。 やがて時刻が二時を回った頃のことです。 キャッキャ、キャッキャ 何処からか何人かの女性が笑い合う声が聴こえてきました。 こんな時間になんだろうと不思議に思いましたが、Kさんはその時は怖いと思わなかったそうです。 時折深夜の収録を終えて戻ってくる女子アナウンサーや何かの編集作業を行うために朝早くにやってくる編集ディレクターもいます。 おおかたその類の人間だろう、そう思っていたのだそうです。 ところがいつまで経ってもその声はこちらに近づいてきそうにありません。 アナウンサールームに行くにしても、事務室に訪れるにしても、編集室の前を通らないわけにはいかないのです。 そこらでお喋りでもしているのかな? でも深夜に会社の中でガヤガヤされるのは迷惑なんだよな。 そう思ったKさんはちょっと叱ってやろうと思って扉を開けたのだそうです。 廊下には誰もいませんでした。 真っ赤な非常灯の灯り以外、誰かが居た形跡も何もなかったそうです。 大層不思議に思いましたが、差し迫った編集のほうが重要です。 あまり深く考えないようにして、Kさんはその日朝まで編集室で作業に徹していました。 問題が起こったのは翌朝です。 「おいあのテープ誰が何処にやったんだよ」 昨日の若いディレクターが顔色を変えて社内中を彷徨いています。 「どうしたの?」 徹夜明けで疲れた目をこすりながらKさんが声を掛けると若いスタッフは真っ青な顔で言いました。 「いや、昨日撮ってきた滝不動のテープが何処にも見当たらないんです」 聞けば昨日机の上に置いていたテープが朝一にやってくると忽然と消えていたのだそうです。 「そんなバカな。 昨日一晩中居たけどもテープを持ち歩いた人間なんて見ていないぞ。 そもそも俺以外誰も来ていないよ」 「そうですよね。 ただ机の上においていたテープを誰かが持っていくとも思えないですよね」 若いスタッフは首をひねっています。 結局そのテープは出てこなかったそうです。 Kさんに詳しく聞いたところによると、テレビ局というのはテープの管理はとても厳重だそうで、無くなったりもしくは間違って上書きされるというのは殆どないのだそうです。 テープの在り処を一緒に探していたKさんはフッと昨日のことに気づいて、「そういえば昨日の夜中・・・」と若いスタッフに奇妙な声のことを話しました。 途中まではテープの在り処に必死で聞く耳を持たなかったスタッフが若い女数名の声と言った瞬間に表情を失いました。 「いや、実は滝不動に行ったときにすぐ脇に小さなお社があったんです。 そこには小さな小さな陶器のお稲荷さんの人形。 小さな狐の人形が三体転がっていたんです。 ただ撮影するときのそれがとても邪魔だったものですから、脇にどかして『ごめんよ、そこらで遊んでてくれよ』そう冗談交じりに声をかけたんです。 でもそんなの関係ないですよね?」 青ざめるスタッフにKさんは尋ねました。 「お前さ、その狐の人形をどかした後にちゃんと戻してきたのか?」 スタッフは無言で首を振りました。 「バタバタしていて、戻すことを忘れて、すぐに撤収してきてしまったんです。 ちょっと午後休みをとって、俺行ってきます」 若いスタッフはそのまま休暇を取り、自分の車で滝不動に行ったのだそうです。 Kさんの携帯に彼から電話があったのは夕方近くになってから。 震える声で彼は「ありました、テープ・・・」と言いました。 転がしていた狐の人形のすぐ傍らにケースに入った状態でテープが置かれていたそうです。 おかしいではありませんか。 Kさんは彼が戻ってきてカメラの中からテープを取り出し、机の上に置くことまで見ているのです。 わざわざそのテープを見つからないように盗んで彼が来るまでの間に滝不動に持っていって置いた。 そんなことがあるでしょうか? 今でもこの話はそのテレビ局で語り草になっているそうです。 すでにもう中年に入っている当時若かったそのスタッフは神社や寺を撮るときに新人に必ず言うそうです。 「バカにするかも知れないけども、そこに礼儀を尽くしてしっかりと挨拶をするんだ。 そうしたら悪いことはきっと起きないはずだから」 皆さんも心霊スポットに遊びに行くことがあれば、是非挨拶だけは欠かさないようにしたほうがいいかもしれません。






