舞台「ひめゆりの塔」
私が若い頃に、お世話になっていた劇団での話しなんですがね。 そもそも私は芸能美術という仕事をしたかったんですよね。舞台の絵を書いたり、立体模型を作ったり。 そういう仕事をしたかったんで、その世界に顔を出したのがきっかけだったんですが。 それで、当時の舞台の出し物は、ひめゆりの塔でしたね。 第二次世界大戦の沖縄の悲劇ですよね。 若い娘さん達が大勢亡くなっていったわけなんですが、ちょうどその時期にあわせて舞台をやりました。 その舞台で、私は美術担当。日程は5日程の公演で昼夜二回の公演。 それで、初日の舞台はうまくいったんです。二日目もよかった。 それで、三日目でしたかね?私が舞台の上手の袖に行ったら、墓石がたくさんあるんですよ。 もちろん作り物なんですが、私それを見て、あれ?と思ったんです。 私は美術担当ですから、どの幕でどのセットを使って、何が必要なのかっていうのは全て把握していましたから。 でも、私達の舞台では、墓石を使うシーンはなかったんです。墓石は必要なかったんです。 普段、その劇場では舞台をあまりやりませんでしたから、そんなものがあるわけないし、 こんなにたくさんの墓石を一人や二人で運べるわけはないですからね。 もちろん劇場側にも聞いたんですよ。 でも、「いや、こちらは一切そちらにお邪魔していないから、わからない。そんな物を搬入した覚えはない」 って言うんですよ。 もちろん我々関係者も誰もわからない。そんな物を運んだ人はいない。 おかしいんだ。誰が運んで来たかわからないのに、その墓石があるんだ。しかもおびただしい数が。 みんなで、これは気持ち悪いねって話してましたよ。でもしょうがないですからね。 それで、舞台がはじまりましたよ。私も忙しく動いていました。 舞台の間は誰かが必ず舞台の袖にいるわけなんですがね、一幕が済んで準備があるんで上手に行ったらそれがないんですよ。 かなりの数あった墓石がないんですよ。 これは誰が片付けたの?これはどこに持っていったの?って聞いてもみんな首を振る。 舞台の袖に居た演出家にも聞いたけど、みんな知らないって言うの。自分達じゃないって言うの。 「よしてよ…気持ち悪いよ…」って話しをしてたら、 舞台の出演者が来て、「見ましたか?」って言うんです。 それで話しを聞くと、その墓石には、舞台で出てくる役名が全て入っていたって言うんですよ。 「そんなの作ってねえよ…気持ち悪いね」ってみんなで話してたところに女優さんが駆けてきましてね、 「すみません、私の出ているシーンでライトを客席に向けていますか?」って言うんです。 でも、その女優さんのシーンでライトを客席に向けるような事はしてないんですよね。 「どうしたの?」って聞いてみると、 「いや、私の死ぬシーンなんですけど…舞台のずっと上手のほう、上のほうで白い人が五人並んでた」って言うんですよ。 しかも、それがどうもおかしいと。 輪郭がぼやけたように五人居たって。あんな照明あったかな?とずっと気になってたって。 それ聞いて演出家が、「時期も時期だし、お礼でも言いに現れたのかな?」って言ってね、 それでその時は話しが済んじゃったんですよ。 舞台は無事に終わりました。 でも、また同じように舞台をやるだろうから、今回の写真を撮っておこうって話しになってね。 それで、黒幕の前に出演者がみんな並んだんです。 軍服や、土地の女の人の格好や、看護師の格好なんかをして、みんな衣装を来て並んだんです。 それで写真家さんに写真を撮ってもらったんです。 写真の出来上がった頃に、私ちょうど事務所に居たんです。 そしたらマネージャーが、「おい、なんだこれ?こんなの気持ち悪いね…」って言ってるんですよ。 それで社長も出て来てね、「なんだよ?何がおかしいんだ?」って聞いたんです。 そしたら、そのマネージャーが、 「おかしいじゃないですか?これ。出演者が並んでいる上に、知らない顔が並んでじゃないですか?」って言う。 知らない顔が写り込んでいたんですよね… 社長さんは大変豪気な方なんですが、さすがにそれを聞いて、 「これは、もう一度写真を撮りなおそうと。でも、その前にお参りにでもいこうじゃないか」と言う事で、 関係者みんなでお参りに行った覚えがあるんですよね。 そういう時期にそういう舞台をやると、なぜか魂を呼び戻してしまうのかな? って言う事を、私思ったりした事がありますよね。





