スタジオのピアノ

東京四谷のB放送。ここはかつて教会だったんですよね。
それで昭和26、7年頃に進駐軍によって抗争が始まったようなんですけどね。
今でもやっぱり建物を見るとその頃の面影がありますよね。教会だったなぁっていう。

それでここに大きなスタジオがあって、そこで番組をやっておりました。
そのスタジオに私も呼ばれたことがある。
何度も呼ばれているんですが、その頃は何だったかというと、私が色々と怖い話をする番組だったんですね。

リスナーの方からも連絡が来るもんで、オペレータの方がズラッといる。
それでこちらでMCさんがメインで喋っているわけだ。私もここで話をしている。
その日はなんだかわからないんですけど、やたらといい雰囲気になったんですね。
怖い感じになってきた。

それで、スタジオの明かりを消したんですね。
暗くなると、みんな「やめろよやめろよおい」と言っている。
なんだか妙に盛り上がってくる。
向こうで電話をとっているオペレーターの女の方々もなんだか怖がっている。
そんな空気がちょっと面白い。
それで私の話が一区切り終わったんですよ。

話しが終わった瞬間、みんながザワザワってなりかけたら、
どポロロン..ってピアノの音がしたんですよ。

その瞬間みんなが、おいやめろよおい!驚くじゃないか、ピアノなんか鳴らすなよ!と騒ぎ出す。妙にそれが怖かった。
それでみんなピアノのある方に目をやったんですよね。それで気がついたんですよ。
あるとばかり思っていたピアノ、そのスタジオには無かったんですよ。

おい、今のはなんだったんだ?って話になった。
確実にピアノは鳴ったんですがね、部屋にピアノは無いんですよ。

それでこのピアノなんですが、不思議なんですよね。
音を撮ってもちろん録音しますよね。
それでその音の中に女性の歌声が入っているっていうんですよ。
おかしいですよね、そんなわけないのに。
でも聞いてみると、微かになんですが、賛美歌を歌っているようなんですよね。そんな風に聞こえるんですよね。

そりゃ昔は教会だったかなんだったか知らないですけど、今はラジオ局なんでそんな曲誰も歌ってやしないし。
でも確かに聞こえるんですよ。

それで一人のディレクターが興味を持ちましてね、「どうだろう稲川さん、調べてみようか?」ってはなしになったんです。
私も、あぁそれは面白いねってことで、調べてみたんですよね。

分かったんですよ、それ女性の歌声じゃなかったんですよね。
ピアノの音だったそうですよ。

でも聴くとどう考えても女性が賛美歌を歌っているようにしか聴こえないんですよね。
それでね、今そのピアノなんですがね、一番奥のスタジオに置いてあるんですけど、
その一番奥の部屋のコーナーに置いて、布をかぶせて、その前をカーテンで仕切って、
誰の目にも入らないようにしているんですよね。
建物の中にまだあるんですがね、不思議ですよね。

前の話へ

次の話へ