樹海の女


まぁ皆さんご存知でしょうけども、ここはまっただ中なんですよね。聖域なんです。
たくさんの霊が集まってくる場所なんですが、今からそうですね、数年前なんですけどね
この先に通りがありましてね、そこに民家があるんですけど、若い男性が助けを求めてやってきたって言うんですよ。
どういうことかというとこの青年は自分の人生に自信をなくして、そうだ俺は死んじゃおうって思ったって言うんですよ。
そして一人乗合バスに乗って風穴のところに着いたわけなんですね。
でも何処で亡くなっていいか分からない。自分の人生の最後ですからね。
薬は持っているんだ。
それで樹海の中に入ってきたわけなんだ。まだそんなに暗くはない。
でも人間って不思議なものですね、いざ死のうと思うと人間ってそういう場所を探すんですよね。
自分の亡くなる場所を一生懸命探していた。
そうこうしているうちにどんどんどんどん日が傾いてきた。
彼にも焦りが出てきた、どうしよう一体どうしよう。
やがて辺りは本当に暗くなった。
ふっと見ると向こうに何かが動いているんですよね。
亡くなろうとする青年は何だか不安だったんだろうなぁ。
ソッチの方に行ってみた。
こともあろうに樹海の中に赤いドレスを着た女が歩いて行くんだ。
わけもなく着いていった。
女はどんどんどんどんと歩いて行く。
彼はどんどんどんどんと着いていった。
そうしているうちに何故だか自分の人生の最後に初めてというか、最後というか
出会った女性がなんだか素敵に思えてきたんだ。
そうだ俺はこの女と人間としての最後の契を結んで亡くなろう。
そう思ったと言うんですよ。
急いで歩くんだけど、あっちもどんどんどんどんと歩いて行くもんだから
必死で追いかけていった。
辺りは真っ暗になっていくんだけど、でもその赤いドレスの女はしっかりと分かるんだ。
走っていって後ろからガバっと女に抱きついた。
女がドサッと転んで、自分もドサッとその上に覆いかぶさった。
そして抱きついた瞬間にボキッ!ボキボキッと音がした。
それで女を起こしたら長い髪の毛をかぶった骸骨だったって言うんですよ。
遺体だったんですね。
この瞬間にスッと血の気が引いた。
真っ暗な樹海の中、走り回ってようやく民家にたどり着いてすみません、助けてくださいって
それがきっかけで彼は自殺を諦めたそうですがね、
この樹海の中って、こういうふうな不思議な話がいっぱいあるんですよね。

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