同窓会
夏になると、地方はお盆でみんな帰ってくるじゃないですか? お祭りがあったり、クラス会なんかあったりして。 これはある中学校の、クラス会の話しなんです。 このクラスは非常にまとまりがあった。 他のクラスに比べて成績がいい、団結力がある、揉め事はない。体育祭なんかやると団体競技でも成績がいい。 みんな仲が良くて優秀なクラス。担任は鼻が高かった。先生も自慢のクラスだったんですね。 ですから、卒業して何年か経ってやるクラス会も非常に盛り上がった。 話しているうちに、自然と昔に戻っちゃう。 男子も女子もみんな仲が良い。 「○○ちゃんどうしてた?」 「元気だった?」 「昔はこうだったねー」 なんて話をしてると、昔に戻ったようで、ワイワイガヤガヤ。 最高に楽しいクラス会。 そんなクラス会の中、ふっと見ると一人誰とも話していない黙って座っている女性がいる。 誰とも話をしない。誰も話しかけにいかない。ただ黙ったまま座っている。 みんなは酒を飲んで大騒ぎをしてワイワイ盛り上がっている。 みんな自分達の話に夢中になっている。 でも彼女の周りはシーンとしている。 まるでみんなには彼女が見えていないのか、気づいてないのか、無視しているのか.. でも誰も彼女に気がついていないらしい。 やがてクラス会は終わった。お開きになった。 みんな「よーし、二次会行こうぜ!」 みんなはワイワイガヤガヤ会場を後にしていく。声が段々と遠のいていった。 あの誰とも話していなかった女性も一人ポツーンと会場を出ていった。 何年かしてまたクラス会があった。 みんな集まった。歳頃ですから、結婚した、子供が..なんて話でワイワイワイワイまた盛り上がってる。 昔の話をするものもいれば、先の夢を話すものもいる..ワイワイ盛り上がってる。 だってこのクラスは仲が良い。素晴らしくチームワークがいい。 優秀なクラスで、団結力があって、非常にまとまった素敵なクラスだから。 非常に楽しいクラス会。 でも、ふっと見るとポツーンと座った女性がいる。たった一人黙って俯いて。 誰とも話をしない。誰も声をかけてくれない。ただ一人だけ。 素晴らしい楽しいクラス。みんな盛り上がってる。 でもちょっと違うらしい.. というのは、あそこにたった一人ポツンと座っている女性。 このクラスは、非常にまとまってて、非常に素敵なクラスだけど、それには何かがある。 ポツンと座っているあの女性。みんなと話もしない。付き合いもしない。 でも時間通りにきちんと来て、ちゃんと座っている。でも友達がいない。 どういう子なのかというと、中学時代このクラスはみんな優秀だった。 彼女も決して優秀じゃないわけではなかった。 ただあの彼女は、人前で話が出来ない。引っ込み思案。どちらかといえば暗い。 だからお友達が出来ない。そこへもってきて、生まれついてか彼女は少し足を引きずるんです。 だから体育祭にも出られないし、体育の時間も場合によっては休むわけです。 そういう時は、教室からみんなが運動しているのをジーっと見ているという..そういう状況だったんです。 考えてみると陰気臭い女の子。暗い女の子。変わった子。 となると、他の子はというと..この女の子をからかうんです。 彼女の机の中のノートにこっそり悪戯書きしちゃう。悪戯書きしてそのまま机の中にしまっておく。 授業がはじまってノートを出す。色々な事が書いてある。でも誰が書いたかわからない。 書いたヤツは、「おい、見てるぞ。あいつ今見てるぞ」なんて話をしている。 彼女は困っている。でもどうしていいのかわからない。 気が小さい女の子だから、先生にも言えない。ただ黙って、じっと我慢している。 どうしよう.. その困っているのを見て、「おい、あいつ困ってるよ」なんて楽しむわけです。 また、ある朝彼女の教科書。それをズタズタにして色々な事を書いちゃう。 それでまたポンと机の中にしまっておく。授業が始まって教科書を出す。 貼られたり切られたりして教科書がよく読めない。 彼女はどうしたらいいかわからない。先生にも言えない。どうしたらいいかわからなくて困ってる。 みんなはそれを見て喜んで笑ってる。男子生徒だけじゃない。女子生徒も一緒に笑ってる。 彼女をいじって遊んでいる。 中学生の頃、受験勉強をひかえてストレスも溜まる。イライラもある。 ちょうど大人になりかけの時期だから、色々な鬱憤が溜まる時期なんですよね。 喧嘩しないほうがおかしい。それがこのクラスには喧嘩がない。 たまに溜まった鬱憤を晴らす。彼女で晴らすってわけなんですね。 みんなそう。彼女が筆箱を出す。中に筆記用具がない。誰かが隠してる。でも誰が隠したかわからない。 みんなが彼女をからかって遊んでいる。 彼女をからかう事で、彼女に悪戯する事で、自分達のストレスを発散してたわけです。 彼女に意地の悪い事をして、みんなで笑って、みんなでまとまっている。 彼女をからかって、みんながまとまっていく。 彼女をからかう事によって、このクラスは団結していったんです。 嫌な事は全部彼女にぶつければいい、そんな気持ちだったんでしょう。 でも、これは言い方を変えれば「いじめ」ですよ。 殴ったり脅したりはしないけれど、これは完全な「いじめ」なんです。 このクラスは全員ではないんです。全員がまとまってるわけじゃない。 彼女対他の全員なんです。そういう図なんです。 逆に言えば、彼女が居たからこそ、このクラスはまとまったといって間違いないんです。 嫌な事は全部あいつにぶつければいい。からかえばいい。いじめればいいんだ。 それでみんなで笑っていればいいんだ。彼女が一人で苦しむから。 でも、彼女にしたら、誰がやったかわからない。みんなだから。 自分の周りは全員敵だから。AがやったのかBがやったのかCがやったのかわからない。 ただ、誰かがやった。でも言えない。言ったって向こうは全部仲間だもの。自分は一人だもの。 そんなクラス。このクラスは成績優秀で、まとまりがあって、担任も鼻が高かった。 その、素晴らしくて明るくて、最高のクラス。 でも、実はそうじゃない人が一人いたわけなんです。 でもその彼女、なぜかクラス会に来るんです。 時間通りに来て、ジーっと座って、クラス会が終わるまでいる。 クラス会が終わってみんながワーっと騒いで二次会に行く。 ワイワイ騒いで、ゲラゲラ笑いながら声が遠ざかっていく。 と、ゆっくり立ち上がって、足を引きずって一人部屋を出ていく。 ヒタッ..トン ヒタッ..トン ヒタッ..トン ヒタッ..トン 部屋を出ていく。 何年か経って、またクラス会があった。 腹が出てくるやつもいれば、髪が白くなるやつもいる。 でも相変わらず、ワイワイワイワイ盛り上がっている。 例によって楽しい話はいくらでもある。みんなそれなりの人間になってる。 子供がいるやつもいる。色んなやつがいる。 酒飲むやつも、大声で騒ぐやつもいる。非常にまとまりのあるクラス。 楽しいクラス会。みんな楽しくてしょうがない。 昔にかえり楽しい時間。素晴らしい時間。 あの楽しかった頃そのものの楽しい時間。 でも、ポツンと離れてあの彼女がいる。黙って誰とも話をしない。 誰のとこにも行こうとしない。 誰も彼女に気がついていないのか、無視しているのか..まるでみんなの目に写っていないのか、ポツンといる。 宴会が終わる。みんなワイワイ言いながら出ていく。 みんなが居なくなると彼女がスッと立ち上がって、 ヒタッ..トン ヒタッ..トン ヒタッ..トン ヒタッ..トン 部屋を出ていく。 何で来るのかわからない。友達もいないのに。嫌な思い出しかないのに。 決して面白くないはずなのに、彼女は時間通りにきちんと来てる。 そして、それから何年目かのクラス会があった。みんな楽しみにしてた。 ところが、この時幹事がちょっとした間違いをしてしまった。 というのは、通知では18:30~宴会が始まりますってなっていたんです。 でも、実際はこの時間が18:00~だったんですね。 慌てた幹事が友人宅みんなに電話したんです。 「いやあ、悪い。通知には18:30になってるけど、実際18:00だからよろしくな!」 前の晩に、クラス全員に電話をした。 そして翌日、たまたま遅れたやつがいた。慌てて料亭にやってきた。 「すみません・・同窓会で・・」 「ああ、みなさんでしたら、この廊下を真っ直ぐいったお座敷に..」 「ああ。すみませんありがとうございます。」 トットットット 真っ直ぐな廊下を走って行くと、襖がピシャっと閉まっている。 ん?なんだかおかしい。彼が遅れたのは10分~15分のものだ。 普通なら、もう騒いでる。廊下の途中からみんなの騒ぎ声が聞こえて当たり前だ。 でも、声が聞こえてこない。騒がしくない。本当なら、もう大声で喚いてるやつがいてもおかしくない。 いない、騒がない、音がない。 あれ?やけに今日は静かだな..おっかしいな.. 部屋の前についた。声がしない。 あれ?間違いじゃないのか? カタン..ツッ.. 襖を開ける。間違いじゃない。みんないる。シーンとしている。 どうしたんだ? ビールも酒も料理も全部揃っている。それなのに、みんな黙って座っている。 「おーわりぃわりぃ!遅れちゃったよ。用事があってさー!わりぃわりぃ.. ってなんだよおい。随分暗いじゃねえかよ!どうしたんだよ?あ、俺が遅れたからみんなでからかってるの? やめてくれよ。勘弁してくれよー!」と遅れた彼が言う。 みんな黙っている。シーンとしている。飲んでるやつは一人もいない。 と、そこに幹事が来た。 「悪いな遅れちゃってな。なんだよ、随分暗いな。待ってたのか?」 幹事「いや、そうじゃないんだよ..」 「なんだよ?パーっといこうぜ。なんだよ..なんかあったのか?」 幹事「いやさ、昨日の夜さ、時間を間違えたから俺みんなに電話したろ?」 「うん知ってるよ。俺ももらったけど」 幹事「うん。みんなには電話したんだよ。ところがさ、俺気がついたら一人忘れてたんだよ。」 「え?」 幹事「ノダキヨミだよ。」 ノダキヨミというのは、いつもポツンと座っていた、あの女の人です。 幹事「ほら、毎回来てるし、連絡しないわけにはいかないだろ?だから俺あいつの家に電話したんだよ。」 「ノダキヨミってまだ一人もんか?」 幹事「うん。で、俺電話したんだよ。そしたら婆さんが出てきてさ。多分ノダキヨミの母親だと思うんだけどさ.. 俺がこうこうこういう理由だから、キヨミさんお願いします。って言ったんだよ。そしたら、どちら様ですか? って言うから、中学の同窓会で時間を間違ったので電話しました。って言ったんだよ。そういう理由だから、キヨミさん いましたらお電話代わってもらえませんか?って俺言ったんだよ。」 「うん」 幹事「そしたら、婆さんが、どちら様かよく存じ上げませんが、うちのキヨミでしたら20年前に亡くなってますって言ったんだよ。」 「ん?だってずっと同窓会来てたじゃねえか。お前それ婆さんがからかったんだよ!」 幹事「いや、それが違うんだよ。ノダキヨミって20年前に自殺してるんだよ。」 「え?だったらいつも来てたあれはなんなんだよ!きてたじゃねえか!いつも!毎回毎回時間通りに! じゃあ、あいつはなんなんだよ。みんなだって見たろ?ノダキヨミ!いつも端にいたじゃないか!」 幹事「うん。みんなも見てる」 「俺も見たよ!お前も見たろ?」 幹事「うん。見た。でも、ノダキヨミは20年前に自殺してるんだよ。遺書があってな、友達が欲しいって書いてあったそうだよ。」 「じゃあ俺達が見てたノダキヨミって一体なんなんだよ..」 幹事「うん..」 「それでみんなシーンとしてるのか?」 幹事「うん..」 「一体俺達何を見てたんだろうな..ところでお前、時間が変わった事ノダキヨミは知らないんだよな?」 幹事「うん..」 と、一人が18:30になるよって言った。 みんなまたシーンとなった..時計が18:30ぴったりを打った。 座敷があって、襖があって、廊下がある。みんなそっちをジーっと見てた。 と、廊下の端のほうで微かに、 ヒタッ..トン ヒタッ..トン ヒタッ..トン ヒタッ..トン 足をひきずりながら近づいてくる足音がある。 ヒタッ..トン ヒタッ..トン ヒタッ..トン ヒタッ..トン ヒタットン ヒタットン 確実に足音は近づいてくる。 ヒタッドン、ヒタッドン、ヒタッドン、ヒタッ! 足音が止まった。襖のすぐ向こう。 みんな黙っている。 カタンッっと音がした。 ヴっっと思った瞬間.. 「ごめんなさーい。許して下さい!わたしを許して下さい。ごめんなさい。」 クラス委員をやってた女の子が泣いた。 「勘弁して下さい。許して下さい。」 「お参りに行くから、許して下さい。」 と、あちこちから声がする。 みんなが一生懸命謝ってる。泣いてるやつもいる。 しばらくたって、また静かになった。シーンとしている。 カクン..また襖が揺れた。みんな声も出ない。 ただジーっと襖を眺めてた。 しばらくたって、 ヒタットン ヒタットン ヒタットン ヒタットン ヒタットン ヒタットン.. 足を引きずる足音が遠ざかっていった。 それ以来このクラス会は二度と行われなかったそうです。





