脂ぎった顔

わたしのところに佐々木という若手のマネージャーがいるんですが、
ある日その彼が、

「こんな事ってあるんですね。一体なんなんでしょうね?」って言うんです。
「何があったんだい?」と聞いてみると、
「家でおかしな事があった」と言うんです。

彼はわたしのマネージャーをやっていますから、帰りがどうしても遅くなるんです。
家は横浜のはずれのほうなんですが。

それである日彼が遅くに家に帰ると、二階の自分と弟の部屋で、弟が布団に
ちょこんと座るようにして、真っ青な顔をしています。

そんな弟を見て、「なんだよ、お前どうしたんだよ?」と聞くと、

「俺兄貴の帰りを待ってたんだけど、遅くなるだろうから先寝てようと思って。それで、変な体験しちゃったよ。」
と弟は言うのだそうです。

その日はお父さんは出張で、家にはお母さんと弟さんしか家にいなかったそうで、
弟さんがお母さんに「お兄ちゃんは?」と聞くと、
「そのうち帰ってくるんじゃないの?」とお母さんが言うので、
久しぶりに兄弟で話しがしたいなあと、お兄ちゃんの帰りを待っていたそうです。

でも、いくら待ってもなかなか帰ってこない。
まあしょうがないから寝てようと思って、布団に横になるといい気持ちで眠くなってきた。
ウトウトしていると、なんだか足に重さを感じる。なんだか寝苦しい。

なにか足に乗ってるのか?って思ったけど、そんなものは見えない。
(なんだろ?疲れてるのかな?)と思っていたら、その重みが段々と上に上がってくる。
(なんだ?)と思っていると体が動かない。あ、金縛りだ!と思っていると、
つけている電気がフワフワと揺れている。
お母さんを呼ぼうと思っても声が出ない。
段々段々と重みは自分の体の上を上がってくる..
そのうち胸が苦しくなってきた。
それでも何かはどんどんどんどん上に上がってくる。
重さはちょうど大人の人間位の重さ。
段々と息が上がってくる..
静かな部屋の中で自分の荒い息遣いだけが聞こえる。

(おかしい、なんだかこの部屋にはもう一人誰かがいるようだ..そうだ!呼吸を変えてみよう)
と弟さんは思った。荒い息遣いを抑えてみる。

すると、かすかに
「ヴゥ..」ともう一つの息遣いが聞こえる。

(うあ!やっぱりこの部屋にはもう一人いるんだ!)
と思ったけど、どうする事も出来ない。体は動かない。

どんどんどんどん何かは迫ってくる。
そのうち、グーッと首が絞まった。誰かが自分の首を絞めている。
スーっと意識が遠くなってくる。

「殺してやる..殺してやる..殺してやる..」声が聞こえてきた。
弟さんはびっくりして飛び起きた。

弟さんは、
「飛び起きたその瞬間に、真っ暗な空中で脂ぎった男の顔掴んじゃったんだよ..あれなんだったんだろうな..」
ってそんな話していたそうです。

前の話へ

次の話へ