ムジナの敵討ち

おばあちゃんから聞かせてもらった話です。
おばあちゃんが子供の頃の話なので、相当昔の話です。

おばあちゃんは、新潟の田舎にある小さな村の生まれでした。
その村では年に何回かお祭りがあり、その一番の神事の時には、
村の若者四人が選ばれて、隣村から御神体を借りてきていたそうです。

若い男四人が選ばれて御神体を借りに隣村まで行くのですが、毎年毎年帰ってくると
「また今年も騙されちゃったよ。参ったよ。またムジナにやられた。」と言うそうです。

お祖母ちゃんにムジナってどんなものかと聞いてみると
「そうだなあ..狸みたいなもんかな。ただ狸と違ってムジナは手があるんだよ。」
と言っていました。

毎年毎年何かしらの被害にあっていたようですが、
ある年、一人の若者が
「よし、俺が今度その祭りに選ばれたら、そんなムジナたいてやるわ!」と言ったそうです。

そしてその若者が選ばれる番がきて、若者を含め選ばれた四人は隣村へと出かけていきました。
隣村に御神体を借りに行くのですが、途中の山の神社で一泊するのが慣わしだったそうで、
その年も例年通り山の神社で一泊する事になりました。

夜になって、お社で四人は横になりました。
体が疲れていた事もあり、みんなすぐに眠りにつきました。

夜中に、ヒューヒューと風の吹く音が聞こえます。
若者は風の音と寒気で目が覚めました。

どこからか風が入ってきているのかな?とお社の中を見渡すと、お社の中には
長い女性の髪の毛や白い布が下がっています。それが風のせいか揺れています。

どこから風が入っているんだろう?思い、若者は体を起こし真っ暗闇の中を歩きはじめました。
すると、後ろのほうから
「オブッテクレ」
「オブッテクレ」
そんな声がします。子供のような、そうでないような声。
確認しようとしても真っ暗闇で何も見えません。

「オブッテクレ」声は続きます。
(ははあ..ムジナがでやがったな。よし、退治してやろう)青年は心の中でそう思いました。
「よし、おぶされ!」
そう言った瞬間、青年の背中に何かがポンとおぶさり、ギューッっと首を絞められました。
顔のすぐそばでは「オブッテクレ」と声がしています。

青年は自分の首を締める手を掴み、そのまま後ろへ投げ飛ばしました。
背中の後ろで、「グェエ」と声がします。

(よし!退治したぞ!)
明るくなって見てみると、大きなムジナが倒れていました。

そのまま隣村に行って御神体を借り、青年達は村へと帰りました。
ムジナを退治した青年は自慢気に、
「俺やってやったよ!ムジナを退治したよ!」と村人にムジナ退治の話しをしました。

それを聞いていた村の長老が、
「お前ムジナは何匹やったんだ?」と青年に聞きました。
「一匹だよ」と青年は答えます。

すると長老は、
「おまえまずいぞ。ムジナってのはな、オスメス夫婦でいるもんだから、片方だけ生かしておいたらお前また狙われるぞ!」
と言います。

「なあに、そんなの。また来たら退治してやるわ!」
青年は長老の話しを笑って聞いていたそうです。

そんなある日、とても気持ちのいい日があって、お祖母ちゃんは田んぼで仕事をしていました。
すると田んぼの向こうを見たこともない郵便やさんが当時珍しい自転車に乗って通りすぎていきます。
(あらまあ!珍しいなあ。)とおばあちゃんは見ていたそうです。

行き先を見ていると、例のムジナを退治した青年の家に入っていきます。
(なんの用だろうなあ?)と見ていましたが、しばらくの時間が経って青年の家から自転車が出てきました。
自転車は田んぼの中を突っ切って帰っていきました。

その日の夜、家の中で首を絞められて殺されている青年の死体が見つかったそうです。

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