樹海~暗闇の絵馬~
私、毎年何故か富士の樹海に入るんですよね。 それで多い時ですと年に五・六回は入る時があるんですよ。 これはみんな遊びでは無いんですけどね。 それでこの樹海というのは入る時期があって、いつも冬の終わりから春の初めまで入るんですよ。 というのは樹海というのは夏を挟んで春の終わりから秋の初め、その時期というのは一番自殺者が多いんですよね。 ですから下手をすると出くわしちゃったりするもんで。 暖かな季節になってくると、樹海の中を通っている道路がありまして、ここは夜中でも車が通るんですよ。 樹海はシーンと静まっているもんだから、遥か彼方のエンジン音が聴こえてきてしまって、なかなか遠くに行くまで静まらないんです。 それで撮影ができない時もあるんだ。 まぁそういうこともあって、寒い時期、雪のない時期となるとどうしても冬の終わりから春の初めになってしまうんですね。 この頃になると木の葉が落ちて、見通しも効きますし、肝試しをしているような人と会うこともないですから。 それで大体この時期になるんです。 ただ、風が吹くと寒い。 樹海というのは寒いんじゃないんです。 冷えていくんですよね。 だから同じ状況で五分もいたら我慢ができないという、そういう状況なんです。 それで毎回この樹海は何かが起こる。 妙なものに遭遇するんですよ。 まぁこれもそんなことの一つなんです。 この話というのは気が付かなかったんですけど、後になって気がついた、というような話なんです。 例によってその日も樹海に行ったわけです。 夜の遅い時間に、ロケですから、車何台でも行って、車を停めて、そこからは皆各々が荷物を持って機械を運ぶわけです。 早い話が人力で運ぶわけなんです。 それぞれが懐中電灯を持って真っ暗な樹海の中を進むわけですが、これが妙に楽しいんです。 現場まで来たら皆機材やら荷物を置くわけだ。 そして現場と車の間を何回か往復するわけです。 その間出演者はというと、ロケバスで待機をしているわけですが、待機をしている方も決して楽ではないんです。 ヒーターは効いているし、小さな明かりは付いている。 ところは周りは黒一色の闇なんです。 突然窓ガラスにベタンと何かが張り付くようで、それが妙に怖い。 さて、準備が出来て撮影に入ろうというのでそのロケバスに女の子を迎えにいくわけですが、 一人では流石に怖いということで若手のスタッフ二人が行くことになったんです。 仮に彼らをAくん、Bくんとしておきましょうか。 真っ暗な樹海の中を二人は行ったわけだ。 そしてロケバスの中に居た女の子二人を連れて戻ってきたわけですが、この女の子達を便宜上Eちゃん、Fちゃんとしておきましょう。 原生林の中をAくんが懐中電灯を持って先頭を歩いて、その後ろを三人がくっつくようにしてついていくわけだ。 時折カラカラと梢が鳴っている。 そしてしばらくやってくると Eちゃん「ねぇ、ここ何だかゾクゾクしない?」 Fちゃん「ねぇ、何だかここお線香の匂いがしない? あ、それになんだか今話し声が聞こえた気がする」 と、先を歩いていたAくんがフッと立ち止まって持っていた懐中電灯で辺りを照らした。 途端に「あ、何?」とEちゃんとFちゃんが声を上げた。 見ると原生林の木々にまるで絵馬のような札が下がっている。 Aくんが近づいていってみてそれを照らしてみると、そこには“○年○月○日 ○○さんのご冥福をお祈りします”と書いてある。 そしてもう一つの札を見てみると、“○○さんもう苦しまないで。幸せになってください”と書いてある。 もう一つ札を見てみると“○○くん、君のことは忘れないよ ○年○月○日 ○組一同”と書いてある。 Aくん「おい、ここで随分自殺しているんだなぁ」 と呟くように言った。 流石に三人も怖くなったんで、Aくんの後ろにくっつくようにして三人は手をつないだ。 そしてお互いに手を握りしめながら暗闇の中を歩いて行く。 もう誰も口を利かない。 時折カラカラと風が鳴っている。 そしてずっとやってくるとやがて木々の間から照明が漏れてきた。 Eちゃん「あー良かったね、明かり見えてきたね、何も無かったね」 そして現場に入ったわけだ。 そのまま撮影が始まった。 ひとしきり撮影があってセット替えということで休憩に入ったんです。 Fちゃん「ねぇ来るとき怖かったよね。 私あんまり怖かったからさ、右手でEちゃんの手をグッと握ってさ、 左手でBくんの手をグッと握ってさ、あたし真ん中で来ちゃったよ」 Eちゃん「え? わたし左手でFちゃんの手を握ってたけど、右手でBくんの手を握って、私真ん中だったよ」 おかしいですよね。 これはEちゃんとFちゃんが嘘を付いていなければ、男が一人多いことになるわけだ。 ということはEちゃんかFちゃんが繋いでいたその手はBくんではない、その男の手ということになるんですよ。 Eちゃん「ねぇBくん、あなたさ、どっちの手で誰と手を繋いでた?」 Bくん「おい寄せよ、俺が真ん中で二人と手を繋いでいたんじゃないか」 Bくんが嘘を付いていなければ、女が一人多いことになるわけだ。 おかしいですよね、これは三人が三人共嘘を付いていなければ、あの暗い闇の樹海の中を、 この四人の他に男と女が二人一緒に手を繋いで歩いてきたことになるわけですよね。





