指が無い幽霊
ファッションデザイナーの友人から、しばらくぶりに連絡をいただきましてね。
それで彼がね、たまたま仕事で乗ったタクシーの運転手から面白い話を聴いたって言うんですよ。
ただ自分からその話をしたんでは話のニュアンスが変わってしまうから、電話番号を聞いたから後は直にその運転手から話を聴いてみてよっていうんですね。
それで私はその運転手さんに連絡したんですね。
それはその運転手さんが深夜に遠距離の客を乗せた帰り、なんだか途中でやたらと眠くなってしまった。
(あー駄目だ。眠い。
ちょっと何処かで仮眠を取ってから帰ろう)
それで通りかかった田舎の道に車を止めて、明かりを消して、シートを倒して、風が入るように運転席の窓を少しだけ開けた。
辺りはもうだいぶ暗くなっている。
辺りには人家がない。
シーンと静まり返っている。
それで体を倒して目を瞑って、そのうちにウツラウツラとし始めた。
と、足音が聴こえて、それが自分の方に向かってくる。
足音の方を見てみると男が一人、こっちに向かって歩いてくる。
(あれ、こんなところでお客さんか?
丁度眠いところだし、帰り道と同じ方向だったらいいんだけど)
そう思っていると男は近寄ってきて運転席の窓をひょいと覗きこんだ。
「すみません・・・携帯電話を掛けてもらえませんか」
おかしなことを言うなぁと思って「はぁ?」と聞き直すと、
「いや、私指がなくて掛けれないんです」
そう言うと自分の手を広げて見せた。
見ると右手には指が無かったそうですよ。
(うわ、随分と気味が悪いな。
それにしてもこの人は一体何処から来たんだろう)
「お客さん、何処から来たんですか?」
男は指のない手でスッと方向を指し示したんでそちらを見てみた。
見るとくさっぱらがあってその向こうに線路が見える。
線路の脇には何かが並んでいるのが見える。
何だろうなと思ったら、それは花束なんですね。
これは気持ちが悪いなと思い、ハッと気がついた。
(そうか、どれくらいか前に上りの客車と下りの貨物列車が信号のミスで大事故を起こした。
ここがその現場だったんだ)
「ねぇ、お客さん。ここってもしかして電車事故があった場所?」
見たらもう男の姿は無かったそうです。
辺りはシーンと静まり返っていたそうです。
運転手さんは一気に眠気が覚めて夢中でタクシー会社に帰ったそうです。
こんな話を聴かせてもらいました。