剥がれる大きなポスター

関西学院大学にお邪魔した時の話なんですけどね、私の周りに学生さんがたくさん集まってきて
「稲川さん、怖い話してよ、怖い話してよ」って言うんですよ。
せがまれて、いくつか話をしましたよ。

そうしましたら、その中にいた学生さんが
「稲川さん、僕も怖い体験しているんですよ。
 でもこの話は、聴いた人も同じ体験をしちゃうんです」
と言うんで「へぇ、それは面白いね」と言って、話を聴かせてもらったんです。

それは彼にとって何てこと無い日だったそうなんです。
いつものように家に帰って夕飯を食べて、部屋でゴロンと横になっていた。
彼の家の場所と言うのは大きな道路があって、そこからずっと一本通った道の向こうにあるんですよ。
ガレージがあり、玄関口があり、家に入って廊下を通って階段を少し登ると、
階段の登り口、丁度角のところに彼の部屋があるんです。

それで彼は部屋の中でゴロンと寝ていた。
でも何だかその日はなかなか寝付けない。

(何だか寝付けないなぁ・・・)

気が付くともう四時過ぎだったそうなんです。
そうしましたら、車が近づいてくるエンジン音がするって言うんです。

ブーーーーーン・・・

それでしばらくすると、自分の家の方に来る丁度曲がり角、そこを車が曲がってきたらしい。
そして自分の家の方に近づいてくる。

あれ?と思っていると、車が自分の家のガレージに入ってきた。

(あれ、こんな時間に誰だろう・・・親父はとっくに帰ってきているはずだしな・・・。
 それとも親父が、予定が変わって遅く帰ってくることになったんだろうか?)

と、しばらくすると鍵が開く音がして、玄関のノブを回す音がする。
そしてドアの閉まる音がする。
カタっと音がすると、廊下を歩く音がして、階段を上ってくる音がする。

ドンドンドンドン・・・

すごい勢いでくるもんだか、一体何があるのかと思った。

すると、音は自分の部屋の前で止まった。
でも誰も入ってこなかった。

やがて朝になり家族と顔を合わせたもんですから
「昨日の朝方、俺の部屋の前まで来たの誰?
 何か用事でもあったんじゃないの?」
と聞いてみた。

お父さんは「何が?」と言うし、お母さんも「行ってませんよ」と言う。
家族は誰も来ていないと言う。

(おかしいな、あんなにはっきり音を聴いたのに・・・)

それからまたしばらく日が経った。
その日もいつもと変わらない日で、夕飯を食べて部屋で横になっていた。
別に用事もないからゴロゴロしていたんですよね。
そして明け方になったならば、またエンジン音がしたって言うんです。

それは前と全く同じで、自分の家に向かう曲がり角を曲がり、家に向かってやってくる。

(おいおい・・・これ前と同じじゃないか)

と、車は自分の家のガレージに止まり、鍵を開け、ノブを回して玄関に入ってくる。
そして廊下を歩き、階段をドドドドドとすごい勢いで駆け上がってくる。

(あれ・・・)

そう思っているうちにまた音は自分の部屋の前で止まった。
見るのは怖いんだけども何だか気にはなる。
何なんだろうと思い黙っていると、その音と気配はフッと消えてしまった。
後で部屋のドアを開けてみたが、何の異常もないわけだ。
朝にまた家族に聞いてみるんだけども、誰も自分の部屋に来ていないと言う。

(確かめてみればよかったな・・・)
そう彼は思いながらそしてまた日が経った。

その日もまた何も変わらない日で、夕飯を食べて部屋でゴロンと横になった。
何故かこの日もまた眠れない。

ボーっとしていた。
時間はもう明け方近く。

(弱ったな・・・またこんな時間か。寝てないよ・・・)

と、エンジン音がする。

(あ、これ前と同じだ・・・来た)

妙な期待をしながら待っていると、その車はいつも通りに自分の家に続く曲がり角を曲がり、家の方へやってくる。

(来る来る来る来る!)

そう思っているうちに、自分の家のガレージに車を停める音がする。

(止まった・・・これはまた同じように来るな)

彼は構えていた。
ドアがどんと閉まる音がして、廊下を歩く音がする。
階段をドドドドドドと上がってきたんで、今日こそは確かめてやると思い、ドアをバンと開けた。

ドアを開けると、誰も居なかった。

(なんだよおい、誰もいないじゃないか)

でも確実に音は聴いているし、一体何なんだろうと思い、布団に寝転がって横になった。
と、丁度自分の頭の先、壁のところに貼ってある大きなポスターが目に入った。

(あれ・・・俺こんなポスター貼ってたっけな?)

それは大きなポスターで、全体的に青みがかかったポスターだったって言うんですよね。
と、上のほうがポツンポツンと剥がれてフワーッとポスターが自分に向かって覆いかぶさってきた。
寝ているところにポスターが覆いかぶさってきたもんだから驚いていると、ポスターの中から髪の毛が出てきた。

(えっ!?)

そう驚いていると、目の前に女の顔があり、

うぁぁぁあああぁぁぁぁぁああ

と女が声を出したって言うんですよね・・・。

彼はそのまま意識を失ってしまった。

「稲川さん、朝に起きたらそんなポスター無かったんですよね。
 でも稲川さん、この話を聴くでしょ、そうすると、聴いた人は必ず同じ体験をするんですよ」
って言いながら彼は笑っていましたよ。

でも私はそんな体験していないんですけどね・・・。

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