やせていく子供たち


この話しというのはね、私が子供の頃に、母親から聞かされた話しなんですよ。
うちの母親が言うには、『これは新聞にも載ったのよ』っていうんです。

場所は千葉の船橋でのことなんですが…

小学校に通うお兄ちゃんと、オチビちゃん。
歳は一年生と三年生位なんですが、この2人は、とても裕福な家の男の子だったそうです。

2人が通う小学校の先生は、ある日この2人の事が気になった。
というのも、日に日にこの2人の兄弟が痩せていくっていうんですよ。

家は裕福ですからね?食事に困るわけでもないだろうし、問題はないんですが…
日に日に痩せていく。

それで、先生は兄弟を呼んで、「どうしたんだ?何かあったのか?」って聞いたそうなんですが、
2人は揃って「ううん」と言う。
上の子も下の子も、体の具合は悪くないって言うんだそうですよ。

そうは言っても、2人の様子は、どうみたって普通じゃないですからね…どうしたもんだろうと思ってね。
2人には親がいますから、勝手に病院に連れていくわけにもいかないしね。

ただ、先生には一つ気になる事があった。
というのも、この家のお父さんは、ほとんど海外に出張している。
まあ、それは仕事ですから仕方ないんですが…

その留守を預かっているのが、後妻さんなんです。
この兄弟の本当のお母さんは亡くなっていて、お父さんは後妻さんをもらってるんですね。
嫌な言い方をすると、継母(ママハハ)ってやつですよね。
先生は、それが、ひっかかってた…

それで先生は、また兄弟を呼んで、話しをした。

先生    「本当は何かあるんじゃないか?もしもそうなら先生が味方になってあげるよ?」
お兄ちゃん 「…先生…夜中になると、部屋に鬼がやってくる」
先生    「鬼?その鬼は一体何をしにやってくるんだい?」
お兄ちゃん 「夜になると部屋にやってきて、冷たい手でほっぺたを触るんだ…そして顔を覗きこんで笑うんだ…それが怖い…」
弟     「うん…本当だよ…」

先生は黙って聞いていたんですが、そんなばかな話しはない。
いくらなんでも夜中に鬼が来て、子供のほっぺたを冷たい手で触って、顔を覗きこんで笑うなんてありえない。
これは、怪しいな…と思った。

だから先生は、兄弟に、
「じゃあ、その鬼を先生が退治してあげるよ。だから先生を誰にも気づかれないように、こっそりと家に入れてくれないか?」
と言った。

日を決めてね、家人にわからないように、家に入って、
兄弟の部屋の押入れに先生は入り込んだわけだ。


やがて、時間は夜中になった。
兄弟は、いつものように布団に入って、寝始めた。

あたりは、シーンと静まり返ってる。物音一つ聞こえない。

と、どれくらい経ったか、何だか物音がする。

ヒッタヒッタヒッタ…ヒッタヒッタヒッタヒッタ…

誰かが足音を忍ばせて、兄弟の部屋に近づいてくる音がする。
先生は押入れの中で、(足音がするな…)と思いながら、じっと息を潜ませている。

この日は、やっぱり兄弟のお父さんは、出張で海外に行っているんですね。

と、カタッ…ツー…という音がして、襖が開いた。
先生は押入れの中にいるから、誰が入ってきたのかはわからない。

でも、誰かが襖を開けて、入ってきた気配がする。

(来てる来てる…誰かが来てるな…)
そう思って、少しだけ押入れを開けて、部屋の様子を覗いてみた。

するとね、髪を振り乱した般若の面をつけた女が立っているのが見えた。
よく見ると、女はこんにゃくを手に持っている…

そして兄弟に近づいていくと、そのこんにゃくで、男の子の顔を、ペチャッ…ペチャ…と触り始めた。
すると、男の子がハッと目を開けて、女の顔をジーっとみている。

その瞬間…女は、ヒャハハ…アハハハハ…と高笑いをあげた。

男の子が悲鳴をあげそうな瞬間…先生は押入れから飛び出していって、
その女に体当たりしたわけだ。

般若の面がとれると、それはなんと…継母(ママハハ)だったそうなんですがね…


『これ、本当にあった話しなのよ。新聞にも載ったんだから…』と、
うちのおふくろが言っていましたよね。

小さな頃、こんな話しをよく聞かされましたよ。


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