深夜の送迎バス

私と一緒に心霊の研究をしている友人が居ます。
というのも、彼は作家なんですけど、彼は非常にユニークな人間で、しょっちゅうあちらこちらに出かけます。
彼は元々大阪の人間なんですね。
ある時彼は東京での仕事が終わったんで、仲間と一緒に大阪に向かっていました。

でも仕事終わりで時間がありますから、何となくコッチ方面に行けば大阪だろうと、
半分遊び感覚で適当に車を走らせながら帰っていました。

それでその時走っていたのは、川沿いの堤防のような道なんですね。
夜中だったんですが、彼はハンドルを握って運転。
隣に居る相方はモノを食べながらあーでもないこーでもないとお喋りをしているんですよ。

「しかし珍しいな、ここ全然車おらんやん」
「おらんな」

道は真っ直ぐなんですが、前を見ても後ろを見ても車が一台もいない。
そういうこともあるでしょうけども、何だかおかしいなぁと思っていたんですね。

しばらく走っていたら車一台くらいはすれ違ってもいいですからね。
でも走っても走っても全然車とあわない。

それもそのはず。
実はこの場所というのは旧道でして、通行止めになっているのを間違って入ってしまったんです。
そしてその通行止めの旧道をずっと走っていたんです。

ガードレールが無いものですから、ちょっとでもハンドルを間違えると落っこちそうになるんですよ。

「おい、気をつけてくれよな。頼むで」
「おー、気をつけなあかんな。・・・しっかし危ない道やな」

そう言いながら彼は運転していた。

彼は一生懸命に運転している。
隣の相方はモノを食べながら、落っこちると困るので一生懸命に自分側の脇を見ている。
土手の上を「落ちんなよ、頼むぞ」と、そんな会話をしながら車を走らせている。

それで、相方が一生懸命道を見ているんですが、そのうちに道が大きく蛇行し始めたんですね。
向こう側がライトの加減で見えたんですが、相方が

「おい、こんな時間に子供がおるんで」
「んなもんこんな時間におるか!」
「いや、おるんやって子供が。ほら、土手の上に何人もおるぞ」

車はどんどんその子どもたちの方に近づいていく。
車が蛇行したカーブを曲がると、一瞬その子どもたちが見え、またカーブに差し掛かる。

「確かに子どもたちおったで」

彼もハンドルを握りながら、相方が言う方をチラチラと見る。

「んなもんおるかいな、気のせいやろ」

道の方へカーブを切っていくと、また土手が見えてきたんですね」

「ほら見いや。やっぱり子供おるやないか。子供たくさんおるって」
「こんな夜中に子供が何してるっちゅうねん。こんな車がおらん道で」

それでその子供が居ると言う土手に向かって車は走っていく。
相方はしきりに外を眺めながら「おるおる」と言っている。
運転している私の友達も気になりますからね、チラチラとそちらを見るんですよ。

確かに土手の斜面にたくさんの幼稚園くらいの子供が居て、草をむしっているんです。
時間は夜中ですよ。
周りには車一台もいないんです。
街灯も無い。
灯りといえば、この走っている私達の車のヘッドライトしかないんです。
ところが確かにこの真っ暗な土手の斜面で、子どもたちが草をむしっているんです。
運転しながら彼が相方に聞いた。

「おい、それにしてもおかしいな。子供やったら声くらいあげるやろ。
 子どもたちの声、お前聴いたか?」
「いや、聴いてない・・・」

「子どもたち、騒いでいるか?」

「いや、騒いでいない・・・」

「子どもたち、動いているか? 一人くらいどっか行ったり走り回ったりしているか?
「いや、していない・・・」

「おい、何だかここやばいな。急ごうや。何だか良くない感じがする。急ごう」
 普通幼稚園児やったら普通親やったり先生やったり、引率者がおるやろ。
 誰か大人がおったか?」
「いや、おらんかったと思う・・・」

「これ何かあったのかもしんねぇな・・・まずいな」

二人はなんだか嫌なものを感じたんですね。
運転していた彼のその前方に、その時ちらっと白い車のボディーが見えたんです。
どうやらそれは白いマイクロバスのようでした。

「おい、アレ見てみろ。あれマイクロバスだよな?」
「うん、マイクロバスっぽいな」

近づいていくとそれは幼稚園の送迎バスなんですね。
あぁ、さっきの幼稚園児たちはこのバスで来たのかと、彼はそう思った。

近づいていくと、このマイクロバスにタイヤが無いことに気がついた。
何だこれ・・・?

なおも近づいていくと、このマイクロバスはボロボロに壊れている。
随分前に事故にあったような車なんですね。
二人とも、非常に恐怖を感じたんですね。
なおも走って行くと、車はバスにどんどん近づいていく。
道路が狭いので、そのバスとすれ違わないといけない。

更に走って行くと、かなり近いところに車に書かれた『○○幼稚園』という字が見えた。
相方のほうが見るのが嫌なんでしょうね、そっぽを向いている。
ハンドルを持っている彼も怖いんですが、なんせ狭い道なんでどうしたってそちらを見ないといけないんです。

「嫌だなぁ・・・ほんと嫌なもの見ちゃったよ・・・」

そう言いながら車がすれ違っていく。
見たくはないし、見ようとも思わないんですが、どうしても目がいってしまうんです。
ふっと見ると、バスの窓ガラスが割れている。
明らかに事故で壊れてしまったような車なんですね。
ずーっと車の窓が見えている。
すれ違う瞬間、何気なく助手席を見てしまった。

その瞬間、彼はすごい悲鳴をあげた。

その助手席の窓の向こうで、顔が崩れた血だらけの女がじーっとこちらを見ていた。

恐怖で急いで車を走らせた。

「おい、引率者おるやないか! 血だらけになってな!」

それっきり彼らは一言も口を利かなかったそうです。

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