赤ん坊のマネキン人形

87 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ :03/01/30 00:49
彼女は看護学校の学生でした。
まだ10代で遊びたいさかり。
ある日ナンパされて、同じ年頃の男の子と付き合うようになりました。
二人は急速に深い関係となり、彼女は妊娠してしまいました。
しかし、お互い学生同士だった為、出産するわけにもいかず、
子供は諦めることにしました。
そのことがきっかけで、二人は別れてしまったそうです。

彼女はひどく落ち込みましたが、学業に専念することで立ち直り
無事に准看護婦の試験に合格することができました。
勤務する病院も決まり、仕事に没頭する毎日を送っていたのですが、
心のしこりは大きくなるばかり。
過去の過ちを誰かに相談することもできず、精神的にも不安定になっていた
ある日、彼女は自分のシコリを見つけました。 

それは、母親学級の実習に参加した時のことです。
お母さん達の手に、彼女の不安は託されていました。
赤ん坊のマネキン人形です。

誰もいない実習室、彼女はそっと人形をカバンの中に入れました。

月日は流れ、彼女も笑顔を取り戻し、他人からは親しみ易い印象を
持たれるようになっていました。
そして、友人の紹介で知り合った男性と恋に落ち、仕事にも充実した日々が
訪れました。
「ママ、結婚しようかな」
彼女は物言わぬ人形に、一人静かに語りかけました。
「安心して。あなたはずっと私と一緒だから」
人形が寂しげな表情を浮かべると、彼女は優しく抱き上げました。 

男性の熱烈なプロポーズによって、彼女は自分の秘密を打ち明ける気になりました。
過去をすべて告白すると、「本当の事を言ってくれて嬉しい」と、なぜか感激した様子。
彼女は安堵したというより、拍子抜けした気分でした。
生命を守る仕事に就きながら、生命を軽んじたことの罪悪感。
そのストレスをどうやってやり過ごしたか、彼女は相手に人形を初めて見せました。

その時です。
彼女の暮らす部屋の中で、突然赤ん坊の泣く声が響き渡ったのです。
「あー、人見知りしてる。ずっとママと二人きりだったからね」
驚いたのは男性の方でした。
平然と人形をあやす彼女を目にして、尋常でないと感じました。
しばらくすると泣き声は止み、彼女はにっこり笑って言ったのです。
「寝ちゃったみたい。ほら、寝息が聞こえるでしょ」
男性は呆然としました。
人形の口元に耳を寄せると、微かに寝息が聞こえるのです。

自分の見聞きしたものが信じられず、男性は混乱しました。
あの人形はラテックス製で、教材として販売されているものです。
声を出すような仕組みにはなっていません。

思い余った男性は、さる有名な霊能者に見てもらうことにしたそうです。
そして、彼女に黙って人形を持ち出し、霊能者の家を訪ねました。
「ああ。これはだめだわね」
その女性の霊能者はすぐに答えたそうです。
「想いが強すぎて、寄り依が人格を持ったみたいね」
男性がその意味を問うと、霊能者は言ったそうです。

「この人形の持ち主は、子供を産めません。流産させられますよ」

「ここまで来ると、もう浄霊できないでしょうね」

「何とかなりませんか」
男性はすがりつきたい気持ちで尋ねたそうです。
すると、その霊能者は声をひそめて言いました。

「この持ち主よりも、この人形を可愛がってくれる人。そういう人が
いたら、何とかなるかもしれませんよ」 


   37に続きます。 

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