ビニールケース

37 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ :03/01/29 00:17
ある日、海外勤務していた友人から至急の電話があった。
日曜の明け方、シンガポールからだったか。
寝ぼけ眼で受話器を取ると、
「社宅のトランクルームに私物を預けてあるんだが、
それを取って来てもらえないだろうか」
挨拶もそこそこに、友人は切り出した。
「管理人に話は通してあるから、悪いが今日中に取りに行ってくれ
ないか」
切羽詰った様子は受話器の向こうからも感じ取れた。
「黒い蓋つきのビニールケースなんだ。それがすぐ必要なんだ」
友人のたっての頼み、こちらにも断る理由がなく、勢いで受けてしまった。

荷物の引き取りはスムーズにいったのだが、肝心なことを忘れていた。
友人の電話番号を控えていなかったのだ。
確か年賀状があったはずだと家捜ししたが、途中でひどく面倒臭くなってしまった。
今日中に連絡あるだろうと思い、そのまま部屋で待機した。

夜更かしして朝早く起こされ、そのまま電車で郊外の団地まで行き、
昼過ぎにはすっかり疲れていた。
そして、うたた寝してしまった。

夢うつつに、赤ん坊の泣き声が聞こえていた。
ふっと目を開けると、視線の先にビニールケースが。
そう言えば中身は何か聞いていない。
もし国際郵便で送ることになれば、内容を知っていなけりゃなあ、
そんなことをぼんやり考えていた。
このまま送って構わないのか?などと自分に言い聞かせながら、
ケースを厳重に梱包してあるテープを剥がした。 

中からは色々なベビー服が出てきた。
そして一番奥から、バスタオルに包まれた、赤ん坊のマネキン人形が。

まさか、さっき聞こえていたのは・・・・・

マネキン人形は柔らかい樹脂か何かでできた、かなり精巧なものだった。
こんなもの売っているのか?と思いつつ、人形の体に触れていると、
背中に何か感触があった。
タオル地の服をめくると、一通の手紙が出てきた。
友人には悪いと思ったが、ここまで来て止めるわけにはいかなかった。 

「この人形を、あなたの赤ちゃんだと思って可愛がってください。

あなたの愛情が人形に伝われば、あなたは再び身ごもるはずです。

その時が来たら、この人形をすみやかに、同じ境遇の女性に渡して

ください。手元に置いてはいけません。もし手放さなければ、

あなたは一生この人形を愛しつづけることになります」

手紙にはそう記されていた。

友人は結婚していた。
子供はいなかった。
いろいろ思いを巡らしていると、電話が鳴った。
友人からだった。
「間違いがあったら困るんだ。Fedexで会社宛に郵送してくれ」
こちらも人形のことは黙っていたし、友人も口にしなかった。

数日して、友人から、荷物が無事に届いたという知らせがあった。
その後、音信不通になったが、時々考えることがある。
あの人形の行方について。 

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