お経

729 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ :2001/08/04(土) 02:37
長いので数回にわけさせていただきます。

五年程前の話です。ちょうど上京して一年が過ぎようかという2月の終わり。
その晩は真冬だというのに妙に寝苦しく、私は布団の中で
何度も寝返りを打っていました。
私の部屋はワンルームで、ベッドは壁にぴったりとくっついた状態で
耳をすませば隣のテレビの音などが聞こえます。
『キィ、バタン』夜中の2時頃に隣の住人が帰宅した様子を耳にしつつ
とりあえず眠れないながらも目を閉じていました。
すると、しばらくたって『ジャカジャカジャカジャカ』と何かベースとかを
壁一枚向こうで鳴らしているような音が聞こえてきたのです。
非常識な隣の住人に対して怒りを感じながらも意地でも寝ようと
無視する体制でうつ伏せになって枕に顔をうずめていました。 

10分位たったでしょうか、いつまでもやまない音に対して
イライラしながらもふと気付いたのです。その音が壁一枚向こうではなく
自分の真後ろから聞こえている事に。
耳をすますとにぶいベースの音に聞こえていたものはなんとお経!?
そこで初めて自分が金縛りになっている事に気付きました。
金縛りなど初めての事で頭がパニック状態。
動かそうと思っても指一本動きません。
いつしか、お経と共に『シュル、シュル』というシーツを這うような
音も一緒に聞こえてくるではありませんか。
目をあけてもうつ伏せであるために相手の姿は全く見えません。
「おのれ、後ろをとるとは卑怯な!」と思いつつとりあえず
パニックな頭で「南無阿弥法蓮華経」とデタラメな念仏を唱える。 

「でも、ちょっと待てよ。後ろでお経唱えてる相手にお経は
効くのか!?つうかこのお経間違ってるけど正解なんだっけ!?」
余裕がない筈なのに、頭の中はコントをやっているように
余計な事はよくまわる。
そこでもう諦めて、恐怖しながらも「寝よう!朝日がのぼるのを
ひたすら待とう!」と無理矢理無視して寝る体制へ。
しばらく経つと、身体がふっと軽くなりお経は止みました。
でも恐くて後ろは確認できず、固まったまま朝を迎えましたが。
実は今もその部屋に住んでいます。

すいません、長い割に恐くないですね……。
でも一番恐かったのは10分の間、幽霊様が必死でお経を唱えて
らっしゃったのに気付かずにいた神経の図太い私……。
おそまつさまでした。 

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