マカツチ山

287: マカツチ山1/5:2012/08/20(月) 15:28:21.12 ID:gfdNyRwr0
夏ももうすぐ終わるし、季節ものを語らせてもらうか。 
ちょっと長くなりますが、ご勘弁を。 

小・中学校と同級生で、今も付き合いのある友人Aの話。 
Aの家は神主で、よくAや俺、その他の友達と神社で虫取りしたりサッカーして遊んでた。 
Aの親父に車に乗せてもらって、海やプールにも行ったな。 
Aの親父は見た目はヤ〇ザみたいなコワモテ。
普段はアロハシャツにサングラス、パンチパーマといういかにもな容姿。 
体格も良くって、神主の格好をしてないときは絶対堅気に見えなかったなぁ。 

小学校5年生の8月30日、もうすぐ夏休みも終わっちまうって日に、Aから電話がかかってきた。 
「今日うちでお泊り会しないか?」 
「するする!他には誰がくる?」 
「YとTとS。花火とスイカ用意してあるから、絶対来いよー」 
「わかった、お母さんに話すからちょっと待ってて」 
俺はこれまでにも何回かAの家に泊まりに行ったことがあって、母の許可は簡単に下りた。 
昼飯を食べたら市民プールに集合、プールで遊んだらAの家へということとなった。 

プールでひとしきり遊びAの家に着くと、Aの親父が出迎えてくれた。 
「おー、いらっしゃい。今日は夕飯寿司だぞ」 
相変わらずコワモテだが気さくなおっさんだ。
それから俺たちはゲームしたり漫画読んだりスイカ食べたりと、夏休み最後の思い出作りに勤しんだ。 

夕飯の後、Aがマカツチ山に探検に行こうと言いだした。
神社の裏手には子供たちがマカツチ山とか赤土山と呼ぶ小さな山がある。
山と言っても高さは10メートルそこそこの丘だが、杉林になっていて夜は薄気味悪さ抜群だ。 

おまけに子供たちの間では、首つり自殺があったとか殺人事件があったとかのアヤシゲな噂が絶えない。
そこに探検、要はみんなで肝試しに行こうと言うわけだ。 
俺も含めみんなノリノリ、二つ返事でOKだ。だが夜中に子供だけで出歩いたら、
Aの親父にブン殴られかねない。夜中大人が寝てからこっそりと抜け出すことにした。 

午前1時くらいだったか。いつの間にか俺は寝ていたが、俺はAに揺す振られて目を覚ました。
Aを含む他の4人も、眠そうな顔をしていたが既に起きている。 
「父さんも母さんももう寝てる。行くぞ」 
ソロリソロリと足音を立てないように俺たちは外に出た。

懐中電灯を持ったAとYの二人が前、その後ろに俺とTとSが続く。
神社の境内を抜け、マカツチ山にたどり着いた。 
「山の裏っ側の道祖神に、一人ずつ名前を書いた石を置いてくるんだ。
明日見に行って自分の石が無い奴がビビりだぞぉ」 
この肝試しのルールを考案したYがニヤニヤと説明した。

じゃんけんで順番を決め、T、S、Y、A、俺という順番になった。 
「よっしゃ、行ってくる!」 
Tは気合を入れて出発したが、声は心なしか震えていた気がする。
俺も正直怖かったが、小学生とは言え男の見栄だ。そんなことは言えない。 
10分程して、Tが戻ってきた。 

「いやー、楽勝楽勝。大したこと無いな。おいS、早く行けよ」 
「オッケ、任せとけ」 
TとSはこの5人の中でも割と無鉄砲な性格で、あまり躊躇無い様子だった。
しかし10分経っても15分経っても、Sが帰ってこない。
段々心配になった俺たちは、みんなでSを探しに行くことにした。 

道祖神までは一本道なのだが、どこにもSがいない。
これはヤバいぞとみんなが青ざめだした途端、急に体がダルくなってきた。
風邪をひいたとき悪寒が走る、あんな感じだ。 
みんなガタガタ震え、言い出しっぺのAやYは泣き出しそうだった。 

「あっ、S!」突然Tが叫んだ。Tは道祖神とは道を挟んで反対側にある池を指さし、走り出した。
Tの指さす方向を見ると、なんと池の中にSが突っ立っている。
いや、Sはゆっくりと池の深い部分へと歩いていた。 
池の周りにある立ち入り禁止の柵を無視して、俺たちはSにダッシュで近づいた。
Sは心ここに在らずな様子だったが、Tが頬っぺたに平手打ちをくらわすと、ハッとした様子で我に返った。 
「あれ、みんなどうしたん?」 
「どうしたじゃねーよ、なんでこんなとこにいるんだよ!」 
「いや…なんか突然入りたくなって…」 
要領の得ないSを引っ張って、俺たちは水の冷たさと悪寒に震えながらA宅へと戻った。 

Aの家に着くと玄関の明かりがついており、Aの親父さんが怒った様子で立っていた。 
「お前ら、マカツチ山に行ったな?」 
「…ごめんなさい」 
「バカタレどもが。目をつぶれ」 
ギュッと目を閉じると、皆頭にゲンコツをゴチンと1発ずつ食らった。
Aの親父のゲンコツはめちゃくちゃ痛かったが、殴られると同時にスッと例の悪寒が無くなった。 
その後は特に怒られたりもせず、俺たちはさっさと寝た。 

2学期になってから、Sにあの日のことを詳しく聞いた。 
「道祖神に石を置いたら、後ろから何かに引っ張られた気がした。
気づいたら池の中に立ってて、周りにお前らがいた」 
Sの話はいつの間にかクラス中、学校中に知れ渡り、マカツチ山には新たな噂が一つ追加されたのだった。
前々からマカツチ山には一人で行かないように!と先生から注意されていたが、
この頃から更にキツく言われるようになった気がする。 

それから15年経った。
マガツチ山は俺が高校生の頃に切り崩され、デカいマンションが建って今に至る。
池も埋め立てられ、マンションの中庭になっている。 
今年のお盆に実家に帰ったとき母から聞いたんだが、
マンションではここ数年で3件も転落事故が起きてるそうだ。
それを聞いて、15年前の夏の体験を思い出したと言うわけ。 
以上。 

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