歌う橋

159: 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ 2006/05/15(月) 01:13:15 ID:2vTtIcn10

知り合いの話。
彼の実家の山村に、歌う橋があったのだという。
夜中にそこを通りがかると、橋の下から軽やかな歌声が聞こえてくるのだと。
彼自身はよくある怪談だと思っていて、まったく信じていなかった。

しかしある夜、彼も実際に歌声を聞いてしまった。
澄んだ女性の声が微かに聞こえてくる。
不思議なことに少しも怖くない。橋の下を覗いてみたが誰も居ない。

 坊やはどこかな? 坊やはどこ行った?

そういう呼び掛けを延々と、調子よく繰り返している。
変わった歌だなと思ったが別に害がある訳でもなく、橋を後にした。
その後も何度か、その歌を耳にしたという。

社会人になり村役場に就職した彼は、村の昔話を本にする仕事を手掛けた。
その時初めて、件の橋を造る際に人柱が使われたという話を知った。
人柱は女性だったらしいが、詳しい素性は伝わっていない。
・・・おそらく坊やが居たんだろうな。そう思った。

現在その付近には護岸工事が成されて、橋も新しく架け替えられた。
コンクリート製の新しい橋は、歌わなくなったと聞かされている。

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