大きな岩

508: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE 2006/06/04(日) 20:43:34 ID:XxpSd2JJ0

のっぺりした、家ほどに大きな岩を真横から見ると、
その向こうには空だけがあり、まるで大絶壁のようだった。
ザイルを垂らし、腰のベルトに通してポーズを取り、
写真に収めようということになった。
きっと、名うてのクライマーのような写真になるだろう。
張ったザイルに身体を預け、ほんの1メートルも登れば、
四角く切り取られたカメラのファインダーの中は、
ヒマラヤかアルプスさながらだ。

俺がポーズを取り、友人がそれを撮影した。
次に俺が撮影し、友人がポーズを取る。
ベルトに通したザイルを引っ張り、固定されているのを
友人は確認した。
すでに習慣となった動きだ。

友人が笑いながら1メートルばかり登り、そこで表情を
引き締め、ザイルに体重を乗せた。
ファインダーの中、友人の姿は予想通り、とんでもない
大絶壁に挑むクライマーだ。
何枚か撮影し、友人から目を離してカメラをしまおうとした。

どすんという音と、喉の奥から搾り出すような、短く、低い
友人のうめき声。
落ちたな、とそれはすぐ分かった。
尻餅をつき、岩を見上げる友人は、ザイルを握っている。
落ちたからといって、どうこう言う高さではない。
「おかしいなあ」と友人は首をかしげる。
ベルトからザイルが外れていた。
確かに確認したはずだし、問題も無かったはずだ。
とはいえ、何事にもミスはあるものだと、その場では納得した。

山から帰り、フィルムを現像に出した。
馴染みの写真屋は、うまく現像できない写真が何枚かあったことを
俺に告げた。
ネガを広げ、二人で確認した。

現像できなかったのは、大岩での友人の写真。
友人は写っているが、ぴんと張ったザイルは写っていなかった。
ザイル無しでは絶対に不可能な姿勢で、友人は岩に貼り付いていた。

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