時計と時間

121 :本当にあった怖い名無し:2009/09/22(火) 20:50:38 ID:l6YyHbBP0
先輩にオカルト好きな人がいる。 
先輩といっても、別におれはオカルトクラブに所属しているわけではなく、
彼がただ単に学年が上で、ただ単に近所に住んでるからよく話すだけだ。 

そんな彼と、いつものように放課後、一緒に帰りながら話していた。
俺はふと、友達から聞いたある事件の話を思い出した。
といっても、くだらない嘘の話だと思っていた。 

その事件とは、ある国である物理学者が、ある時を境に一切動かなくなった。というものだ。 
その男は、時計と、机と、紙とペン、そして窓を完全に塞いだ部屋で研究に没頭する、という変な男だった。 
研究対象は”時間”。
大抵は毎日研究施設に、同僚とコーヒーを飲みに来ていた。 
しかし、ある日を境に研究施設へ足を運ばなくなった。 
2,3日目までは彼の同僚たちも、
「きっと何か素晴らしいアイディアを思いついたに違いない」「研究に没頭しているのだろう」と考えていた。 
しかし1週間たち、流石におかしいと思った同僚たちが、彼の自宅を訪れ、彼の研究室の扉を開けた。 
するとどうだろう。扉を開けた瞬間に、その男が部屋の中で崩れ落ちたのだ。 
同僚たちは走り寄り、大丈夫かと問うた。
意識があった男は、
「ああ、よかった。突然全身に力が入らなくなったんだ。丁度いい所にきてくれたね。ああ、何だ、目が痛いよ」
と礼を述べた。 
「一週間も何をしていたんだ」
同僚が言うと、男は「何を言っているんだ。君には昨日会ったじゃないか」と。 
同僚が「何を言っているんだ。君は一週間施設に来なかったんだぞ」と言うと、男はこう言った。 
「何を馬鹿な。私はついさっきまで普通に研究を続けていた。一週間なんぞ決して経ってない。
 ほらみろ。あの時計は○日の○時を指しているじゃないか!」
そこには、日付と時間を指すタイプの時計が、一週間前の日のある時間を指して止まっていた。 
男の話からすると、男は一週間前から一切動かずその場に居続け、
同僚が部屋に入ってきた瞬間、突然倒れたのだった。 

先輩に、この嘘のような話に対する意見を聞いた。 

君は、例えば数億分の一秒、数百億分の一秒、もしくは数秒、数分、例え数時間ずれた時計を見ても、
「ああ、今は何時だ」と思うのだろうね。 
普遍的な時間の流れがあるか、それはわからない。
物理学的にはあるかもしれないね。僕は詳しくないから知らない。 
でも、君は時計を見たときに、「今は何時だ」と考える。
それが例え、いわゆる標準時、電波時計なんかの”正しい”とされている時間から、
数時間、半日ずれていたとしても。 
つまり、ある時計が示す時間、それが君にとっての時間だ。 
例えば、君が12時間ずれた時計を見て、「ああ、今は何時だ」と思っても、
そのうち周りの環境なんかで、時計がずれていることに気付くだろう。 
じゃあ、時計が止まってたら?君は時間が止まったと思うかい?思わないだろう。 
物の動きや音、それが進んでいるのに、時間だけが止まったと考えるかい? 
普通の人は、時間が止まれば物の動きも止まると思うだろう?
時間を止めていたずらをするなんて想像をよくするしね。 
その男は、とても特別な空間にいたんだ。 
動くものは時計だけ。きっとその部屋は、外の雑音なんかも聞こえないような構造だったんだろうね。 
そこに時計が無ければ、そんなことにはならなかっただろう。
物や音が進んで無くても、時間が止まっているなんて考えないから。 
問題は、そこに”止まった”時計があったことだよ。
言っただろう?”ある時計が示す時間がその人にとっての時間”って。 
男は止まった時計を見た。男の周りには、他に動くもの、音は無い。 
気付けなかったんだよ、本当は時間が進んでいたことに。 
時計を見て、時間が止まっていた。時間が止まっていたのなら、彼は当然動かない。いや、動けなかったんだ。 
全ては彼の中だけの話だよ、確かにね。でもね、彼にとっての”時間”は止まってたんだよ。 

事件の話も先輩の説明もうそ臭いとは思ったけど、まぁ面白い考えだとは思った。 
でも事件の話は、グーグルとかじゃ出てこないんだよね。

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