鄙びた神社

245: 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ 2005/06/22(水) 19:00:51 ID:9DsbDFBM0
私の体験した話。
初めて一人用ツェルトを買った時、嬉しくて、何泊か山で過ごす計画を立てた。 
初日にキャンプしたのは、ある鄙びた神社の外れだった。 
境内から少し下った所に滝があり、辺りは開けた砂の河原になっている。 
一目で気に入り、そこで一泊することにした。

夜も更けた頃、カンテラの灯を落としてシュラフに潜り込んだ。 
滝のドゥドゥという音を聞きながら微睡んでいると、突然世界から音が消えた。 
痛いくらいの静寂に驚き、ツェルトから飛び出すと―

滝が制止していた。まるで時が止まったかのように。 
宙の白い飛沫や淵の波紋までが、月明かりの下くっきりと見える。 
辺りは何の音もしなかった。世界で動いているものは、私の鼓動と数匹の蛍だけ。

去った時と同様、唐突に音が戻ってきた。 
同時に滝が再び流れ始め、水の轟きが響き渡る。 
私はしばらく滝の前に立ち尽くしていた。 
蛍は何事もなかったかのように舞っている。

凍えるような、それでいて泣き出したくなるほど、儚く美しい光景だった。 
もう一度目にしたいが、今のところ叶わないでいる。

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